今年7月、スウェーデンで徴兵制が廃止され、続く10月にはドイツも廃止を決めた。その背景には、冷戦の終結による戦略環境の変化がある。東西陣営間の全面戦争が想定されていた冷戦期には、大量の兵力を調達する上で徴兵制は必要なシステムであった。
だが、冷戦後、各国では、軍事支出が大幅にカットされる一方、局地紛争や人種間対立、自然災害などへの対処が軍隊の新たな任務として浮上してきた。
この結果、軍隊の規模自体を縮小しつつ、遠隔地へ素早く展開する能力が重視されるようになった。また、従来型の国家間戦争においても、兵器のハイテク化や情報通信技術の浸透が進み、量より質が重視されるようになってきた。
以上のような変化の結果、大量の徴兵よりも高度な訓練を受けた少数のプロフェッショナル兵士が好まれるようになってきたのである。
拡大する徴兵数
ところが、近年のロシアでは徴兵制への依存が加速している。同国では18~27歳の男子に1年間の兵役義務が課せられているが、従来は年間25万~30万人程度であったものが2008年から35万人規模に達し、昨年と今年は55万~57万人まで膨れ上がった(表)。
2005年 | 2006年 | 2007年 | 2008年 | 2009年 | 2010年 | |
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合計 | 298.9 | 247.86 | 265.85 | 352.2 | 571.5 | 549.4 |
春期徴兵 | 158 | 124.55 | 133.5 | 133.2 | 300.5 | 270.6 |
秋期徴兵 | 140.9 | 123.31 | 132.35 | 219 | 271 | 278.8 |
(単位:千人)
もちろん、ロシアでも徴兵制廃止に関する議論がないわけではない。
例えば、ウラジーミル・プーチン大統領(当時)は就任後間もなく、ロシア軍の兵力を80万人程度まで削減するとともに、そのすべてを契約軍人(志願兵)で編成するとの公約を掲げていた。
契約軍人(コントラクトニキ)というのは、文字通り軍と契約を結んで軍務に服する兵士のことで、ほぼ無給の徴兵(プリズィブニキ)とは異なって給料が出る。
プーチン大統領の公約は、ロシア軍すべてを契約軍人化するというものであり、事実上の徴兵制廃止政策であった。