この連載を始めてから、にわかに「TPP」という聞き慣れない言葉を耳にするようになった。TPPとは「Trans Pacific Partnership」の略で「環太平洋連携協定」と訳されている。

 言葉は耳新しいが、貿易に関わる協定であり、その考え方はWTO(世界貿易機関)の原則やFTA(自由貿易協定)と変わらない。多国間交渉がWTO、2国間交渉がFTA、太平洋に面している国々との交渉がTPPである。

 菅内閣は、当初、「日本を元気にさせる」としてTPPに前向きな姿勢を見せていたが、党内に反対意見が強いと見ると、一転して慎重な姿勢に転じてしまった。

 参加に反対しているのは、農協(農業協同組合)と、その意を受けた国会議員たちである。政府が自由貿易協定を結びたいと考えても、農協や農林族が反対するために話が進まない。この構図は、ここ50年ほど変わっていない。

 しかし、50年前に比べれば、農民人口は激減しているはずである。それにもかかわらず、なぜ、農民が大きな政治力を有しているのであろうか。このことは、日本の農業問題を理解する上での重要な鍵になっている。

「1票の格差」是正を遅らせた自民党議員たち

 先に答えを言えば、それには選挙制度が大きく関わっている。

 日本の選挙制度の基本は昭和20年代に作られたが、戦争で都市が焼け野原になったこともあり、その頃、多くの国民は農村部に暮らしていた。昭和20年代の日本は農業国家と言ってもよいものであった。

 ところが、昭和30年代に入ると工業が急速に発展し始め、それに伴って多くの人が都市に移り住んだ。実際には、農村部の中学や高校を出た若い人々が都会に就職するという形で進行したが、その結果として農村部で過疎化が進み、一方、都市の人口が増加した。

 このような現象が進行する過程で、1票の価値を一定に保つには、選挙区や定員を頻繁に見直す必要があった。しかし、それが日本で迅速に行われることはなかった。