なお、これに関連して指摘しておくと、駆けつけ警護任務付与によって、自衛隊が紛争地で凄まじく戦闘しまくるようになるかのような論調があるが、例えば南スーダン派遣部隊は国連PKO司令部よってインフラ整備業務が割り当てられており、治安維持任務は別の国の軍隊が担当である。任務外の治安維持に乗り出すわけではなく、せいぜい緊急時の限定的な出動に留まる。

 いずれにせよ、日本で自衛隊の駆けつけ警護の話が具体化してきた背景に、表立って声高に言わなくとも、「邦人保護」の観点がある。穿った見方をすれば、政府が自衛隊の任務拡大を通すために、国民にアピールしやすい「邦人救出」のイメージをあえて持ち出しているなどいうことがあるのかもしれない。だが、本来、こうした活動の是非は、相手が邦人か否かではなく、国連PKOでの日本の役割ということで議論すべきだろう。

政争の具にされてきた「自衛隊海外派遣」

 以上のように、本来なら「法的な是非」「国際的な平和維持活動への参加の是非」「日本人の安全」を整理して議論すべきだが、日本の議論は常に、賛成派と反対派が結論ありきの論争に終始し、その目的のためにこうした論点を混同して利用する。自衛隊の任務を拡大したい側と、自衛隊の活動拡大に反対する側が、それぞれ都合のいい話を材料に、互いにつぶし合うのである。

 例えば、これまで自衛隊そのものを批判していたような陣営が、自衛隊員の命が危険に晒されるなどと主張する。対する政府はそれが争点となるのを回避するため、危険度を故意に過小評価する。

 結局、毎度のことながら、自衛隊の海外派遣という重要な問題が、政局に使われているのは残念なことだ。

 そもそも南スーダンへの自衛隊派遣を決めたのは、当時の野田・民主党政権だった。もっと遡れば、91年の湾岸戦争後に自衛隊初の海外派遣であるペルシャ湾掃海部隊派遣を主導したのは、当時の海部政権の実力者だった小沢一郎・自民党幹事長だった。90年代半ばの自社さ連立政権時代には、当時の社会党もPKO派遣に反対しなかった。

 それぞれ考えはあるのだろうが、ことは自衛隊員や国連要員、紛争地の人々の命に関わる問題である。「自衛隊海外派遣」を政争の具にしてはいけない。