つまり、和食文化とはごはんに味噌汁、おかずに漬物という一汁三菜の食事を基本とし、その土地のものを食べ、お祭りやお正月にはみんなで食を分かち合い、絆を深めることが特徴である。これらは日本人にとっては当たり前のことだったはずだ。

 しかし、今や食の洋風化が進み、米の消費量は減少。一汁三菜どころか、一皿で済ます食事が増えているという。

地域の多様性が和食の多様性をもたらす

 国土が長く豊かな自然が広がる日本では、地域ごとにさまざまな食材があり、調理法が発達してきた。そのため、和食文化は非常に多様であることが特徴だ。

 10月15日に開催された、人間文化研究機構と味の素食の文化センターが主催のシンポジウム「和食文化の多様性」では、民族学などの研究者らが、和食文化の多様性を紐解いた。

 結婚式や葬式など、儀礼や正月などの年中行事における食の役割は大きい。こうした場で一緒に食事をし、膳を配ることは人々のつながりを作り、確認する場であった。大勢にごちそうを振る舞うことは食生活の豊かさを生む。

 歴史をさかのぼれば、数々の交易が行われたことで食が伝播した。たとえば、琉球の伝統的な食も残っている。琉球列島では昆布が採れないのにもかかわらず「クーブイリチー」など昆布を食べる習慣があるのも興味深い。

沖縄の郷土料理「クーブイリチー」。「クーブ」は昆布、「イリチー」は炒めものの意味。

 和食に欠かせないだしも多様だ。だしの素材は昆布、シイタケ、鰹節ばかりでなく、たとえば、だしに使われる魚はさまざまで、カツオ、イワシ、サバ、トビウオやアジ。珍しいものではノドグロやワラスボ、タカサゴ(グルクン)などもだしに使われる。

 儀礼や地域性などさまざまな視点から捉えると、和食の多様性は、地域の文化や歴史と強くつながっていることが分かる。

“方言の危機”と同じ視点で和食文化の存続を考える

 このように和食文化は多様なことが特徴で、各地には地域に根差したさまざまな料理や習慣がある。和食離れといっても、居酒屋で和食をつまむ若者や牛丼屋でどんぶりを食べている若者の姿を見ると、和食そのものが無くなることはないだろうと思う。