「歴史の終わり」以後、激動し始めた世界と米国
フランシス・フクヤマ博士の「歴史の終わり」(The End of History and the Last Man)が世に出てから24年、その仮説は完全に突き崩された。同博士はこう予言していた。
「国際社会においてリベラル・デモクラシー(Liberal Democracy)が他のすべての政治形態を打ち破り、最終的勝利を収め、社会制度の発展は終わりを告げる。そして世界は平和と自由と安定を未来永劫、享受できる。リベラル・デモクラシーという政治形態を破壊するような戦争やクーデターはもはや生じない、まさに『歴史の終わり』だ」
ところがあれから24年、世界はどうなったか。イスラム教過激派集団IS(イスラム国)はリビア、イラクの既成体制を脅かし、過激派思想の影響を受けた「ホームグローン・テロリスト」は欧米社会で顕在化している。
内政面でもリベラル・デモクラシーは破綻し始めている。
なまじ国家の一大事をレフォレンダム(国民投票)に託したために欧州連合(EU)から離脱せざるを得なくなった英国。党エリートが手をこまぬいていたために「ナルシスト的アジテーター」(独シュピーゲル誌)に党を乗っ取られてしまった米共和党。
「一般大衆の声を尊重しすぎ、地方自治体が外交安保問題に至るまで中央政府と対等関係にあるかのような錯覚を起こした日本の某県知事」(米主要シンクタンクの日米防衛問題研究者)・・・。まさに大衆迎合主義万々歳である。
「デモクラシーが生んだトランプ現象」
米国内を吹き荒れた不動産王のドナルド・トランプ氏は、自らの選挙運動についてこう叫んでいる。
「俺の選挙は単なるキャンペーンではない。これはムーブメント(運動)なのだ」
トランプ現象を「デモクラティック・トランパリズム」(Democratic Trumpalism=トランプ的愚民主義)と命名した新進気鋭の米若手政治学者がいる。
今回紹介する本の著者、ジョージタウン大学ビジネススクールのジェイソン・F・ブレナン准教授(政治哲学、政治倫理、公共政策=37)だ。
「Against Democracy」(反デモクラシー論)の著者である。
同氏は、ニューハンプシャー大学を卒業、アリゾナ大学で博士号を取得し、ブラウン大学助教を経て現在ジョージワシントン大学准教授。2011年に著した「投票の倫理」(The Ethics of Voting)で脚光を浴びた。
社会正義と経済的自由・市民的自由を結合させる政治哲学、「Bleeding Heart Libertarian」(熱狂的なリベタリアン)という概念を打ち立てている。
ワシントン・ポストの著名なコラムニスト、イリヤ・ソミン氏はブレナン准教授を「投票動向の分析では世界をリードする学者の1人」と高く評価している。