2009年の幕開けを、地球全体が沈鬱な雰囲気の中で迎えた。世界同時不況は底が見えない。経済危機から脱却していち早く新しい成長軌道に乗るため、各国は大規模な財政出動を競い合い、前回紹介したデジタル版ニューディールの動きも本格化している。今回は、なぜ我が国でもデジタル版ニューディールに本気で取り組む必要があるのか、その背景を分析する。(本稿中、意見にわたる部分は筆者の個人的見解です)
1月20日正午、米国の首都ワシントンでは厳戒態勢の下、約200万人が列席してオバマ新大統領の就任式が厳粛に行われた。「奴隷解放の父」を敬愛するオバマ氏らしく、リンカーン元大統領の聖書に手を置き、宣誓を行った。その後、ホワイトハウスで新大統領を待ち受けていたのは、執務机の上に山積する重要課題。無論、その1つが経済再生だ。
時計の針を少し戻そう。大統領就任前の1月8日。オバマ氏は「米国再生・再投資計画」を発表した。総額約7750億ドル(約72兆円)規模の計画は、2010年第4四半期時点で300万~400万人の雇用を創出し、実質GDP(国内総生産)の約3.7%増加を目標として掲げる。オバマ大統領のイニシアチブを受け、連邦議会は「米国再生・再投資計画」の詰めを急いでいる。
情報通信技術の活用が、その柱の1つになる。具体的には、ブロードバンド基盤の整備や医療記録の電子化推進、情報通信技術を投入した「21世紀型教室」の実現などが盛り込まれている。余談になるが、大統領の発表から4日後の12日、今回の計画について、政権チームによる解説ビデオも発表されている。ニュース番組のような作り込み方で、インターネットを主要なメディアと位置付ける「チーム・オバマ」の新たな試みとして注目される。
情報関連投資、「未来への頭金」
経済再生に向けて、政府歳出の緊急拡大が必要なことは論をまたない。景気の更なる悪化を食い止めるため、財政出動は即効性のある応急措置となる。しかし同時に、中長期的な産業構造の変革や国際競争力の向上を実現しなくてはならない。前述のチーム・オバマによる解説ビデオでも、「国民一人ひとりが議論に参加してほしい。なぜなら、この問題は直面する経済危機だけでなく、我々の未来への頭金の議論だからだ」(モナ・サトフェン大統領府次席補佐官)と解説している。
チーム・オバマが着目するように、緊急対策として情報ハイウェーの整備とその活用を図ることは、経済活動のあらゆる部門で効率化によるコストダウンや、新事業の創出を促す効果を持つ。
歴史上の類例として、1769年のワットによる実用的な蒸気機関の発明に触れておきたい。蒸気機関だけでは、産業革命は起こらなかった。それから数十年後、蒸気機関車の開発と鉄道網の整備が「革命」を本格化させる真の契機となった。鉄道網の整備により、大量輸送が可能に。さらに工場立地の自由度が高まり、大量生産・大量消費型の工業社会への移行が始まり、新事業が勃興した。
情報ハイウェーも、鉄道網と同じ「立ち位置」にある。日本の場合、ブロードバンド網の整備で他国を一歩リードする。その優位性を活かし、情報通信技術の集中投入で経済社会システムを抜本的に変えることが、国の戦略として求められる。