常識を超えたところにある凄まじさ。そういうものに強く惹かれる。自分の人生には決して起こりえない、というか、むしろ起こってしまっては困るような凄絶さに出会いたくて、僕は本を読んでいるのかもしれない。疑似体験でなければ許容できないような異次元の世界に出会うためには、何らかの形で物語に触れるしかない。
異次元の世界は、人間の感覚や想像力、そして行動力を変える力を持っている。
少し前、「THE WALK」という映画を見た。9.11のテロで倒壊した世界貿易センタービルのツインタワーの間にワイヤーを張り、その上を綱渡りするという狂気をやってのけた、実在の綱渡り師の物語だ。
東京タワーよりも遥かに高い場所で綱渡りをする。そんな無謀なことは、普通の人間には思いつきもしない。しかし、それを思いつき実行してしまった人間によって、人間の可能性というのは少し広がる。世の中のさまざまな挑戦や研究も、「普通」を逸脱した人間の狂気が人類の可能性を押し広げた歴史だと捉えることができるだろう。
「普通」の枠組みの中にいては決して見ることができない異次元の世界を体感させてくれる3作品を紹介する。
「人類の未来をすべて計算しつくしちゃったんだ」
『預言者ピッピ』地下沢中也 著、イースト・プレス
未来を知りたいとは思わない。未来が分からないからこそ、僕らは生きていけるのだと思う。もし、未来が分かった状態で生きなければならないとしたら、それはある種の絶望と呼んでもいいのではないかとさえ思う。
ピッピは、日本の地震研究所で管理されている、子どものような体を与えられた人工知能だ。地震予知のために開発されたのだ。ピッピは、地震に関係する情報をすべて取り込み、それらを駆使して未来を予測する。
これまで、ピッピが起こると予測した地震は、すべて予測通りの時間、予測通りの場所で発生しており、これまで数多くの命を救ってきた。
しかし、兄弟のように仲良く育ってきたタミオの喪失をきっかけに、ピッピを取り巻く環境は大きく変わっていく。ピッピに入力する情報は、地震に関係するものに制限していた。しかしさまざまな情勢から、そのリミッターを解除するよう圧力がかかる。科学者は断固拒否するが、その流れを押し戻すことはできない。
こうして、地球上のすべての情報を内側に取り込むことになったピッピ。ありとあらゆる条件から、地震に限らず完璧な未来予測が可能となったピッピは、まさに神のような存在になった。
そしてピッピのその能力はすぐに、ある大騒動を引き起こすことになる。