昨年8月、自民党から民主党へ政権が移行したが、同年末に予定されていた「防衛計画の大綱(以下「防衛大綱」)」の改定は、1年先送りされた。

政権は交代したものの、安全保障まで後退した

 65年の戦後政治の中で、政権交代という歴史的転換を果たしたものの、米国軽視・中国重視とも取られかねない「東アジア共同体」構想、「対等な日米関係」あるいは「日米中正三角形」論などを打ち出し、また基本的に自衛隊の存在や日米安保に否定的な社民党などと連立を組んだ民主党政権の安全保障・防衛政策が一向に定まらないことがその背景だ。

民主党を待ち受ける困難な道のり

昨年の参院選挙では国民から痛いお灸をすえられた民主党〔AFPBB News

 そして、沖縄の米軍普天間基地の移転問題では、迷走に次ぐ迷走を重ね、その一部始終を国民の面前に晒すことになり、我が国の安全保障あるいは日米同盟の行く末に、いたずらに不安や不信をかき立ててしまった。

 そのこともあって、民主党政権は鳩山由紀夫氏から菅直人氏に首相の首をすげ替えたが、7月11日の参議院選挙には手痛い敗北を喫した。

 そして、首相の諮問機関として設立されていた「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」は、ようやく、今年8月27日にその検討結果を報告するに至った。

 この報告書は、「防衛計画の大綱(以下「防衛大綱」)」の改定と、それに基づく次期「中期防衛力整備計画(以下「中期防」)」策定に反映される手はずになっている。

 そこで、今後、我が国の安全保障および防衛に重大な影響を及ぼすことになるであろう本報告書(PDF)について、一読し、感じるところをかい摘んで述べてみたい。

本報告書は「新たな時代」の要請に真っ直ぐに答えているか

 防衛大綱策定に際しては、今回もそうであるように、あらかじめ有識者による懇談会を立ち上げ、総理の諮問に答える形で報告書の提出を求めるのが恒例となっている。

 昨年は、自民党・麻生太郎政権下で「安全保障と防衛力に関する懇談会」が、また2004(平成16)年の16防衛大綱策定時にも同じく「安全保障と防衛力に関する懇談会」が報告書(PDF)をまとめて答申した。

 今般、菅政権下では、「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」が立ち上げられた。特徴は、懇談会に対し、「新たな時代」の認識を明確にしたうえで、それに基づいて「安全保障と防衛力」のあり方を問うている点である。

 そこで、第1の問題は、これまでの諮問と違って特に強調された「新たな時代」をいかに認識し、それにいかに対処しようと考えたかである。