僕が子どもの頃、「サラリーマンになるのは無理だ」と思った、という話は以前も書いた。その時に僕は、「じゃあどうすればいいんだろう?」とも思ったはずだ。

 結果的に大学に進学したが、高校3年の頃、親に内緒で写真の専門学校のオープンスクールに行ったことがある。サラリーマンになれない、と感じているのに周りと同じように大学へ行くことに葛藤があったのだろうし、サラリーマンではない生き方を模索しようとしたのだろう。

 大人になって、こう思う。子どもの頃、もっとさまざまな生き方の実例を知りたかったな、と。子どもだった僕にとって、「働く大人」というのは、親か教師ぐらいしか知らなかった。テレビの向こうには、歌手や芸人やアイドルなど、いろんな生き方をしている人がいたが、さすがに彼らの生き方は参考になる気がしなかった。

 大学時代でさえ僕は、「サラリーマンとして生きる」以外の生き方を具体的にイメージできずにいた。そして就活を乗り越えられるはずがない、と思った僕は大学を辞めた。しかし、サラリーマン以外の多くの生き方をもし具体的に知っていたら、大学を辞めないという選択肢もあったのではないか、と思う。

 自由に生きればいい、という大人でも、その自由がどれだけの広さを持っているのか教えてくれるとは限らない。その広さは、自分で体感するしかない。生き方の自由を体感させてくれる3冊だ。

それ、面白い?

圏外編集者』都築響一、朝日出版社

『圏外編集者』(都築響一、朝日出版社、1650円、税別)

 著者は、フリーの編集者だ。過去一度も、“給料”というものをもらったことがなく、記事の原稿料や著作からの印税で生計を立ててきた。「POPEYE」と「BRUTUS」の編集部にアルバイトとして雇われたことから彼のキャリアは始まり、以後、“編集者”という枠組みに囚われない、いや、大きく外れた人生を歩んできた。

 <いまの雑誌の、つまり編集者の質の低下を見ているのが苦しくてたまらないからだ>

 これまでにも本書と同様のコンセプトの本、つまり「編集術を都築響一から聞く」というタイプの企画は存在したが、すべて断ってきたという。そんな著者が初めて企画を受け入れたのは、担当編集者の驚異的な粘りもあったが、いまの雑誌のレベル低下への危惧もあったと語る。

 <読者層を想定するな、マーケットリサーチは絶対にするな>