だが、1960年代になって木材を燃料としなくなり、米を自由に買えるようになると、地元の人からは用済みとなり、1980年代まで放置される。途中に降ってわいたのがリゾート開発の話だ。近隣には逗子マリーナ、葉山マリーナ、油壺マリーナ、それに伴う大型マンションがずらり並ぶのだから当たり前だろう。とはいうものの、これが結果的には、周囲で起こった宅地開発の波から小網代を守ることになるからわからぬものだ。
1985年にゴルフ場計画を含む周辺一帯の大規模開発の話が持ち上がるが、その計画を好機として、その計画に反対をせず、計画内容の変更提案をつきつめることで、ゴルフ場とリゾート施設になるはずの小網代流域を、まるごと自然保全地とする開発計画に変えてしまったのである。
自然保護というと、プラカードを持ってデモ行進、というイメージだが、開発しようとする企業や自治体と共存していく方針で、対話の場を絶やさないことで、逆にうまくいったのだ。
サイエンスからのアプローチに加えて、関係者たちが対話をしながら進めていく、そんなビジネスの側面があったからこそ守られた「奇跡の森」。この「奇跡」への詳しい経過はお読みいただくとして、森を歩いてみることをぜひお勧めしたい。
なにしろ数千もの蛍が見られるのは、2016年は5月28日から6月12日までとのこと。ぜひ出かけてみたい。

利己的な遺伝子 <増補新装版>
作者:リチャード・ドーキンス 翻訳:日高 敏隆
出版社:紀伊國屋書店
発売日:2006-05-01

人間の本性について (ちくま学芸文庫)
作者:エドワード・O ウィルソン 翻訳:岸 由二
出版社:筑摩書房
発売日:1997-05

「流域地図」の作り方: 川から地球を考える (ちくまプリマー新書)
作者:岸 由二
出版社:筑摩書房
発売日:2013-11-05

足立 真穂
東京生まれ。大学を卒業後、「矢来町」のとある出版社に勤務。国内外の実用書から学術系の本まで、幅広いテーマの本作りを手がけている。書籍編集のかたわら、ロダンの有名な彫刻作品と同名の季刊誌にも創刊時から関わっている。趣味は落語、狂言、温泉。ときどきマラソンを走っているものの、タイムはいまひとつ。
◎こちらもおススメ!
・世界最強の姑さん『ヤマザキマリのリスボン日記』
・『ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた』 ヒトは史上最強のインベーダー
・人を優しくする本 『内臓とこころ』
・『絶対に見られない 世界の秘宝99』失われた化石
・『宇宙からいかにヒトは生まれたか 偶然と必然の138億年史』
◎本稿は、“読みたい本が、きっと見つかる!”書評サイト「HONZ」の提供記事です。