子どものころに母が目の前で自殺し、その後預けられた施設でいじめや虐待を受け、大人になってからもホームレスを経験し・・・。そんな過酷な経験を鮮烈に詠いあげ、注目を集めている人がいる。「鳥居」という名で活動する、女性歌人だ。

 彼女は、母子家庭で暮らしていた小学5年生の時、母を亡くした。睡眠薬などを大量に飲んだことによる自殺だった。その時、彼女はまだ11歳。小学校から帰ってくると母はアパートの部屋で倒れていて、なすすべもないまま、死にゆく母を見ていたという。

〈あおぞらが、妙に乾いて、紫陽花が、あざやか なんで死んだの〉

 鳥居の作品の1つだ。母が亡くなって悲しく、途方に暮れている自分。しかし世界はまるで何もなかったかのように変わらず、美しい――。そんな情景を詠み込んでいる。

小学校にもまともに通えない生活

 母を失った鳥居はしかし、その後も凄絶な運命に翻弄され続けた。母の死後、彼女は出身地の三重県にある施設に入る。だがそこは彼女にとって、心穏やかに暮らせる場所ではなかった。

 ほかの子たちにいじめられ、けがや病気になっても手当してもらえず放置され・・・。

〈全裸にて踊れと囃す先輩に囲まれながら遠く窓見る〉

 だれも頼れる大人がいない境遇に置かれた子は、どれほど孤独か。どれほど精神的に追い詰められるのか。鳥居の歌は読む者の心を掴み、さまざまな思索を呼び覚ます。

 悲しみもつらさも受け止めてもらえない環境の中で、鳥居の心は枯れはて、不登校に。そのまま、中学校を形式上は卒業したが、実際には小学校にも中学校にもきちんと通えていない。

 そんな自分を含め、義務教育を満足に受けられなかった人たちの学び直しの機会を求めて彼女はセーラー服を着て活動。「セーラー服の歌人」と呼ばれている。

〈慰めに「勉強など」と人は言う その勉強がしたかったのです〉

 施設を出てからも、つらい経験は止まなかった。ある男性の脅迫から逃れるためにDVシェルター(近親者からの暴力などを受けた人の緊急避難施設)に入り、ホームレスになり・・・。