2016年1月6日、ニューヨークの裁判所で、ロシアに関する興味深い事件の審理が開始された。
ビル・ブラウダーの快作「Red Notice: A True Story of High Finance, Murder, and One Man's Fight for Justice 」に詳述されるが、セルゲイ・マグニツキー事件を巡る問題の一端が明らかになることが期待される裁判の開始だからだ。
この事件は、外国人に対してロシアへの証券投資を積極的に誘致していたブラウダー創設のヘッジファンド、エルミタージュ・キャピタルの顧問弁護士だったマグニツキーが、54億ルーブル(約250億円)という巨額のロシアの税金が不当に返還(横領)されていることに気づき、種々の裏づけ資料を収集して告発しようとしたことが発端だった。
しかしながら、横領を行った犯罪者一味と結託した検事らはこの横領を行ったのはほかでもないブラウダーとマグニツキーであるとして逆に2人を告発した。
拷問され獄死したマグニツキー
ブラウダーはすでに国外退去措置にあっていたため収監を逃れたが、マグニツキーは未決収容所に1年あまり拘束され、拷問を含む厳しい取り調べを受けたうえ、病気の悪化にもかかわらず適切な医療措置を受けられないまま最終的に収容所内で病死するという悲劇的な結末を迎えた。
ブラウダーは、マグニツキーの死後、エルミタージュ・キャピタルを整理してロシアビジネスから足を洗うとともに、あまりにも悲惨な同僚の死を弔うべく、正義を求めてインターネット上を中心に、本当の犯罪容疑者を暴き、告発する活動を西側で展開している。
そのホームページ「Stop the Untouchables! Justice for Sergei Magnitsky 」には、マグニツキーらが収集した犯罪の証拠が惜しみなく掲載されており、その執念に感銘を受けない者はいないだろう。
彼の活動は、その徹底した情報公開ゆえ米議会でも注目を集めることに成功し、マグニツキー法という米国の法律となり、マグニツキーの死去に関わった者は米国への入国を許さないといった形で日の目を見た。
そして、2014年のクリミア問題に関連して米国が発動した対ロシア制裁措置の中にも、米国における資産凍結対象となった人物リストに犯罪者一味が含まれることとなった。
しかし考えてみれば、マグニツキー法の効果は疑わしい。