Labour is not a commodity.

ILO、「労働市場の主要指標」を発表

65年前の精神は?ジュネーブのILO本部〔AFPBB News

 第2次世界大戦最中の1944年5月、国際労働機関(ILO)は米国フィラデルフィアで総会を開き、ILOの目的を再確認した。このフィラデルフィア宣言のトップに登場するのが、「労働は商品にあらず」という基本原則だ。また、「一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である」とも強調している。ところが、現実には労働力の商品化が加速し、貧困問題は解決をみるどころか、南北間でも一国内でも格差は拡大してしまった。

 日本でも「派遣切り」の嵐が吹き荒れ、非正規労働者を中心に失業が増大している。バブル崩壊を教訓として「モノづくり大国」を目指したはずなのに、「製造業の3社に1社が雇用調整を実施・検討中」(帝国データバンク調査)という。自動車業界の属する「輸送用機械・器具製造」に限れば、6割を超える企業が人員削減に動き始めた。

 「モノづくり」の重要性を訴えていた大企業も、なりふり構わない。小泉内閣が推進した規制緩和以降の製造現場は、非正規労働者に支えられていたのであり、底の浅さを露呈してしまった。

伝統のボトムアップはどこへ?

 1980年代半ば、日本の半導体産業の全盛期。総合電機各社は、収益源であるDRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)の量産技術を競い合っていた。当時、製造装置は米国勢が優れており、ある工程では日立製作所やNEC、富士通などが同じマシンを使っていた。

 ところが、マシンが半導体工場に納入されるや否や、製造現場のオジサンたちが改造してしまう。マシン内部から発生するゴミがウエハー(基盤)に付着すると歩留まりが落ちるため、各社が長年のノウハウを生かしてオリジナル仕様に変えるのだ。マシンを開発した米国人の博士が某メーカーの工場を見学した際、「アメリカでは誰もがカタログ通り使うのに、なんという国なんだ」と叫び、驚愕した顔を今でも鮮明に覚えている。

 製造現場からのボトムアップが巨大企業の競争力となり、その代わりに日本企業は生涯の雇用を保証していた。焼け野原から奇跡の高度成長を果たした原動力となり、世界が称賛した終身雇用は死語になりつつある。派遣や契約社員制度が急激に浸透し、労働力は「変動費」と化す。65年前のILO宣言とは裏腹に、労働のコモディティー化に歯止めが掛からない。あたかも原油や非鉄金属、小麦と同じように「商品」として扱われている。