世界各地でプロジェクトを進める世界的な建築家、隈研吾氏。本書に登場する建築物の数々は、ここ15年にわたる活動の集大成だと言う。
隈氏が追い求めてきたのは「自然な建築」。単に自然素材を使っただけの建築ではなく、その土地の環境や人間と一体になった建築を指す。隈氏がその過程で気づき発見したものは、日本建築の底力と地域の豊かさだった。
(聞き手は鶴岡 弘之)

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──「自然な建築」への志向は建築業界の大きな流れなのですか。

 20世紀は、コンクリートがあっと言う間に世界を支配して、建築の多様性を駆逐しちゃった100年間だったと思うんですね。この15年間、僕はそれに反旗を翻すようなことをやってきた。ところが今、いろいろな所でその反旗に共鳴してくれるような人が出てきた感じがするんですよね。

 日本だけじゃありません。例えば中国でも同様です。上海なんかの超高層建築を見ていると、20世紀の建築を遅ればせながら追い求めているようなイメージがあるじゃないですか。

 でも実は中国の人は、決してそれをいいとは思っていない。やはり昔ながらの自然素材とか職人の仕事に憧れを持ってる若い人がとても多いんですよ。

自然な建築
隈 研吾著、岩波新書、700円(税別)

 僕が中国で竹の家を作った時、「これ、ホントに受けるかな?」って半信半疑だったんだけど、すごい大人気になったんです。国が製作する北京オリンピックのCMにその家が使われるぐらいにポピュラーになっちゃって。それをきっかけにして、「竹の家を作った建築家にウチも頼みたい」っていうオファーがたくさん来たんです。

 だから、中国でさえも20世紀的な建築の先を探してるんですね。それぞれの場所の固有性とかその土地ならではの素材をもう一回見直そうという動きがあるんです。こういう状況を見ていると、何か大きな揺り戻しがきてるかな、という気がします。

──自然な建築を目指すようになったきっかけは。

 バブルが1990年代初めに弾けて、それ以来、東京での仕事が10年ほどなかったんですよ。その間、地方の仕事ばかりしていました。それも地方の都市じゃなくて、山の中に入って建物を建てるような仕事がほとんどです。その時に、ものづくりの本当の現場と出合ったんです。