スペイン語で「豊かな海岸」という国名のコスタリカは、太平洋とカリブ海に挟まれ、その両側に自然保護区の国立公園がいくつかある。
太平洋側の美しいビーチのあるマニュエルアントニオ国立公園のジャングルに入ると、野生の猿やナマケモノなど、多くの珍しい動物が出迎えてくれる。また、ビーチでは、いくつかの密林を通った川が海に流れこんでいる。川はジャングルの植物からしみ出たタンニンにより、赤く染まっている。海水は水温が高いが、川の水はひんやりと冷たく、心地よい。
海で泳いだ後は、シャワー代わりに川に入る。淡水のスッキリとした水を楽しんで川から上がると、小さくて粗末な板きれが置かれていた。その目立たない板きれの標識には「COCODRILO DANGER (クロコダイル危険)」と記されていた。
日本を一歩外に出れば、何が起きようとも自己責任である、と改めて認識する。
「日本人ですよね」と話しかけてきた女
マニュエルアントニオ国立公園は、自然のままの浜を生かしたリゾートエリアだ。欧米人の観光客が多く、スキューバダイビングやフィッシングなどの他に、バギーでジャングルを走るツアーなど、アウトドアのアクティビティーが充実している。
潮が満ちはじめ、太陽が傾いたので、一旦、宿に戻り、洗濯ものを干していると、彫りの深い顔をした痩せた小柄な女性が「日本人ですよね」と話しかけてきた。私が干していた、年賀でもらったタオルには、印刷屋の社名が刷られていた。
黒い短めのワンピースに髪を後ろに結った彼女は、もう1年4カ月も旅行を続けているという。彼女は南米を周り終えて、これから中米を北上し、メキシコ、キューバに行くそうだ。私の方はメキシコ、キューバを終えてこれから南米に向かう途中なので、彼女と情報交換をすることにした。
名前はチエコ(仮名)で、30代前半。元看護婦でその前は職業を転々としていたという。過去にも何度か一人で旅をしていて、以前、1年半の間、東南アジア、インドと放浪したことがあるという。
宿の食堂にてビールを飲みながら、自分の旅行体験、お奨めの場所、過去、どんな危ない目にあったかなどの話をしていると、彼女は「ボリビアで町の乗り合いバスに乗っている時に、デジタルカメラを盗まれた」と悔しそうに唇を噛んだ。
私は「保険は?」と聞くと、「入っていない」という。だが、警察には行って、被害証明書を発行してもらったという。そして、突然、迫るように「あなた、保険は入っているの?」と尋ねてきた。