アメリカ合衆国EPA(環境保護局)が、フォルクスワーゲン(VW)に対して送達した「Notice of Violation」(NOV:違反通知)で「ディフィートデバイス(Defeat Device)」の存在を指摘したことが、世界的に大きな波紋を広げている。ここでは「ディフィートデバイス」の意味と、その何が問題なのかについて改めて整理しておきたいと思う。
テストモード領域とそれ以外の状況を切り替えるディフィートデバイス
長年にわたって(遡れば1970年代以来)、自動車の排気規制はそれぞれの国・地域で定めた「試験走行パターン」、簡単に言えば「テストモード」(時間の経過に沿って走行速度をどう変化させるか)に沿ってクルマを走らせた時に、規制対象となる物質をどのくらい排出するか、それを「1キロメートル走行あたりに換算して何グラム以下」に収めること、というやり方をしてきた。
この評価試験は「台上」、すなわちタイヤを大きな回転ローラーの上に乗せた状態でクルマを固定し、走行を再現する装置(俗に「シャシーダイナモ」という)を使って行われる。
ここで製品を販売するための認証を取得するため、メーカーとしては何よりまず「法的規制が求めるレベルをクリアする」ことを追いかける。その中で様々な「お受験テクニック」が駆使されることは、このコラムでも何度か指摘したとおりだ。
試験時にクルマが“走行”する「テストモード」は、欧米日でその「リアリティ」の差こそあれ、市街地を中心に都市高速を走るぐらいまでの日常的な加減速を再現したものになっている。大気浄化のために自動車が排出する燃焼ガスの中のいくつかの成分を抑制する、という排気規制の目的からしても、道路を走るクルマの“密度”が高く、排ガスの絶対量が多くなる地域に重点を置いてテストモードを作り、さらにできるだけ現実に即したものをと、簡単なパターンからより複雑なものへと変わってきてはいる。
しかしクルマ、特に乗用車が持つ走行性能全域をカバーするとなると、ただ幅広いだけでなくクルマによる違いも非常に大きい。それらを網羅するような評価実験をしようとしてもできない、というのが現実である。そうなると「テストモード」の走行領域を外れたところで、エンジンをどう燃焼させ、それをどう使ってクルマを走らせ、排気性状や燃費はどうなるのか・・・については、それぞれの自動車メーカーに任されることになる。
その中で、テストモード領域に限って、あるいは台上試験の状況に限って、規制値や目標値をクリアするようにエンジン+車両を機能させ、それ以外の状況で実用上の不具合が現れないように車両/システムの機能を切り替えて走らせることを「ディフィートデバイス」と呼ぶ。これは必ずしもエンジンなどの制御ソフトウエアだけでなく、機械的にシステムを切り替えることなどまでを含めた概念である。