経営破綻した日本振興銀行の処理に、日本初のペイオフが発動された。9月10日の大手メディアは早朝から深夜まで軒並みこのニュースをトップで大きく扱い、さながらペイオフ狂想曲の様相を呈した。

 かたや、米国では預金を受け入れる金融機関が日本の13倍の約8000行もあり、年100行以上が破綻する。ペイオフもさほど珍しいことではない。

 振興銀行へのペイオフ発動を契機に、日本の銀行経営者、預金者も、「預金は全額保護」の幻想から目覚める時がやってきた。

ついに来たXデー

 「ついに来た」。振興銀に対するペイオフ発動の報道で、多くの金融関係者がこう思ったに違いない。

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ペイオフが発動されれば、1000万円を超える預金は保護されない可能性もある〔AFPBB News

 ペイオフとは、経営が破綻して業務継続ができなくなった金融機関に代わり、預金保険機構が預金者1人当たり1000万円までの預金元本とその利子を払い戻すことだ。当座預金などの決済性預金は例外的に全額保護されるものの、1000万円を超えて預金していたものは、残余財産の状態によっては全額返還を受けられない可能性がある。

 政府と日銀、民間金融機関が共同出資で預金保険機構を創設したのは、今からはるか40年近くを遡る1971年のこと。しかし、一度もペイオフが発動されることはなく、バブル崩壊後の金融危機で1996年に凍結された。

 2002年4月のペイオフ一部解禁、2005年4月の全面解禁の後も、金融機関が破綻するたびに、金融庁は健全な金融機関に債権・債務を引き継がせたり、公的資金の投入や国有化に踏み切るなどして、預金の全額保護を続けてきた。預金者の不安をあおり、取り付け騒ぎに発展することを恐れたためだ。

 振興銀に対するペイオフ発動は、「全額保護」から「定額保護」への金融行政の大転換がついに実施に移されたことを意味する。

日本振興銀が破たん申請、初のペイオフ発動へ

「金融システムに影響はない」 自見庄三郎金融担当相〔AFPBB News

 金融庁が初のペイオフに踏み切ったのは、「金融システムに影響はない」(自見庄三郎金融担当相)と判断したことに尽きる。

 中小企業向け融資の専門銀行として設立された振興銀のビジネスモデルは、通常の金融機関とは大きく異なる。定期預金だけを受け入れ、公共料金支払いなど決済に使う普通・当座預金がない。金融機関同士の決済を担う「全銀システム」にも加わっておらず、連鎖破綻の可能性は低い。

 金融庁検査をめぐる銀行法違反(検査忌避)容疑で木村剛前会長が逮捕されたことで、公的支援による預金の全額保護には国民の理解が得られないとの判断もあったと考えられる。ちなみに、振興銀の預金者のうち、1000万円超の残高を持ち、預金カットの対象となるのは3423人で全体の2.7%という。