露ガスプロムの欧州エネルギー戦略が混乱しています。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2014年12月1の日にトルコを訪問した際、ロシアからブルガリア向けに天然ガスを輸送する黒海横断海底パイプライン(P/L)建設構想「サウスストリーム」を唐突に破棄して、海底P/Lの揚げ地をトルコとして、トルコから対ギリシャ国境まで陸上天然ガスP/Lを建設する構想「トルコストリーム」を発表しました。
それから7か月後、今度は既存のロシアからバルト海経由ドイツ向けに天然ガスを輸出する「ノルトストリーム」に平行して2本の追加P/Lを建設することにより輸送能力を倍増し、従来のサウスストリーム(トルコストリーム)の輸送能力を半減するという戦略転換を発表しました。
いったいガスプロムに何が起こったのでしょうか?
本稿では、今年6月から7月にかけてのガスプロムの政策転換を概観して、ガスプロムの欧州向け天然ガスP/L構想は今後どのような方向に向かうのか、同社のアレクセイ・ミーレル社長の発言などを分析しながら、予測したいと思います。
露ガスプロム/黒海横断海底P/Lトルコストリーム建設構想を巡る混乱
ガスプロムの欧州向け天然ガス戦略が迷走しています。
ガスプロムは欧州のガス需要家やP/L敷設業者に対し混乱を引き起こしていますが、ガスプロム自体は何らのコメントも出していませんので、混乱はますます大きくなっており、同社の威信は大きく傷ついたと言えましょう。
ガスプロムの今年6月から7月前半にかけての主な動きを概観します。何が起こったのか、まず状況を整理してみます。
●6月15日:プーチン大統領とミーレル社長会談、トルコストリームに言及なし。
●6月18日:ガスプロム、既存のノルトストリームに追加2本のP/L建設構想発表
●6月26日:ミーレル社長、6月末にトルコストリーム建設着工予定と発表。
●7月1日:露・ウクライナは2015年第3四半期のガス価格合意に達せず、ガスプロムは1日、ウクライナ向け天然ガス供給停止(今回は、ウクライナ側主導による供給停止)。
●7月6日:トルコストリームに天然ガスを供給する露域内陸上P/L整備構想「南回廊」に対する投資大幅削減発表。天然ガス供給量半減へ(640億立米から320億立米へ)。
●7月7日:トルコストリームの年間輸送能力半減へ(630億立米から315億立米へ)。
●7月8日:伊サイペム社に対し、トルコストリーム建設用P/L敷設船の契約破棄通告。
◆7月10日:「南回廊」陸上インフラ整備用各種テンダー(総額約500億ルーブル)、破棄通告。
上記より、ガスプロムの欧州向け天然ガス供給構想が6月から7月にかけて、大きく方向転換したことが分かります。次に、個々の事例を概観したいと思います。