前回(「日米共同で南シナ海へ、新『ガイドライン』で可能に」)論じたように、新日米ガイドラインは比類なき効果をもったものです。ただ、何事にも残された課題はあります。そして、比類なき効果の高さとは、それに応じたコストとリスクをしばしば要求するものです。
中篇と後篇では、改定された日米ガイドラインに潜む死角について指摘したいと思います。そして、その死角とは、一歩間違えれば、サイパン島玉砕や沖縄戦の悲劇の再現につながりかねない可能性を持ったものなのです。
ただ、これは課題や最悪の場合のリスクを揚げ足取り的に指摘するものであって、日米ガイドラインの今次改定を批判的に論じるものではないことはご理解いただければ幸いです。
曖昧になった米国の対日防衛への関与
今回のガイドラインでまず気になるのは、米国の対日防衛への関与がやや曖昧に思えることです。例えば、1997年改定のガイドラインでは、「米軍が打撃力を提供する」という項目が3カ所ありました。しかし、今回では、1カ所。それも1つの例としか出ていません。
例えば、航空作戦に関する部分では、「米軍は、自衛隊の作戦を支援し及び補完するための作戦を実施する」となっています。これでは米軍が敵地攻撃してくれるのかあやふやです。
海上作戦でも従来は「米軍は、自衛隊の行う作戦を支援するとともに、機動打撃力の使用を伴うような作戦を含め、自衛隊の能力を補完するための作戦を実施する」と空母機動部隊が殴り込みに来てくれるような印象を受ける内容でしたが、今回の改定では、「米軍は、自衛隊の作戦を支援し及び補完するための作戦を実施する」となっています。空母が来るのか、来ないのか不明です。これでは米海軍の電子偵察機1機の来援でもガイドライン上は正しいことになってしまいます。