梶謙製磁社の梶原謙一郎社長。型に材料を注入する作業をしているところ

 旅館業務に誰もが一通り精通することによって、欠員が生じても誰かが代われるようにしたのだ。

 それは、単に作業効率を上げるためだけが目的ではない。工程を分業化し、いわゆるその道のプロになれば、サービスの質は向上するものの、変化への対応力が弱くなることを見抜いていたとも言える。

 まさに時代は変化への対応を迫られている。長い伝統を持つ有田焼も例外ではないだろう。そして、古い殻から飛び出し改革を実現できれば、時代に合った新たな価値創造が可能になる。

 南雲さんが有田町に来てまず最初に取り組んだのは、梶謙製磁社の再建だった。かつて隆盛を誇った窯元で大きな工場を持ち、敷地内には以前使われていた登り窯も残っている。

 しかし、その工場はというと、長年使わずに放置され、廃墟という言葉がぴったり。気をつけて歩かないと、床が抜け上から何が落ちてくるか分からない状況だった。

まずは4Sから、でも効果は絶大

 そんな状態だったから、まずは4S(整理・整頓・清掃・清潔)を導入することから始めなければならなかったという。

 「とにかく至る所に不要なモノがいっぱいあったので、それらを全部片づけ、いらないモノは使わなくなった工場に運びました。そして、床に何色かのビニールテープを張り、この色のところには何を置くかをはっきりさせました」

 「天井からは一目で何をするところか分かるように工程名を看板として吊り下げてもらいました。これだけでも作業の効率は見違えるように良くなったんですよ」

 今は使われていない工場を見て、これまで日本の自動車メーカーや電機メーカーの最先端工場をいくつも取材してきた目には、これで事業が成り立っているのが不思議なくらいだった。しかし逆に言えば、やりようはいくらでもあるということでもある。

 実際、整理整頓、そして経営者の意識改革を実行したことで、経営は改善し始めた。「毎日、粉塵で鼻の中をまっ黒にしながらやっています」と南雲さんは言うが、その目は輝きを放っていた。

(つづく)