この春、上海のある路上に、台湾資本によるテイクアウト専門のドリンクバー「CoCo」が開店した。

人だかりができる上海のドリンクバー「CoCo」(撮影:筆者、以下すべて)

 タピオカ入りミルクティーはもはや中国でも珍しくはないが、このドリンクバーの前はなぜか人だかりができる。カギは、様々なドリンクを次から次へと繰り出す商品開発力で、2007年の中国本土への進出からたった3年で197店にまで店舗網を拡大した。

 興味深いのは、上海店がオープンしてからの展開だった。この路上ではたった3カ月の間に、左右50メートル内の店がまったく同じテイクアウト飲料業態に鞍替えしたのだ。数えてみると7軒もある。ヒット商品のパクリは、最も手っ取り早く確実な商売というわけだ。

 「儲かる商売」と認識されるや、ドッと企業がなだれ込み、価格競争、品質劣化のスパイラルでたちまち市場は食い荒らされる。

 一方、こちらは上海市内の、ある中国資本のメーカー。安さを武器に追い上げてくる競合他社の出現で、売上はここ1~2年で半減した。危機を感じた経営者は、社内に「新規事業開拓部」を設立した。狙っているのは業態転換。儲かる商売さえあれば、さっさとそれに乗り移ろうという魂胆だ。

 彼らには基本的に本業への執念はない。だから、本業のイノベーションにはなかなか到達できない。結局、株や不動産に手を出し、本業を忘れてしまう。

 筆者がかつて「お仕え」した中国人経営者もそうだった。足元に迫る危機に対して、本業を立て直すことよりも新たな投資先を見つけることで頭がいっぱいだった。彼は本質的に経営者ではなく、投資家だったのである。

「創造」することを知らない中国民営企業

 上海万博の会場には、中国の民間企業が集まって作ったパビリオンがある。「中国民企館(民間企業共同館)」がそれだ。

 何しろ中国のGDPの6割近くを占めているのが民営企業だ。中国経済の牽引役と言われている民営企業のパビリオンとはどんなものか、国民の期待はいやがうえにも高まる。

 出展企業は16社注1)。入り口には、出展企業の社員たちの膨大な数の名刺で作った巨大オブジェが並んでいる。来場者にも「まずは名刺」というわけか。

 だが、目立った展示物はこれだけ。さんざん待たされて中に入った来場者のイライラは極限に達し、ついに中国人男性が「不好看(おもしろくない)!」と怒鳴り声を上げた。

(注1) 16社には以下のような企業がある。カッコ内は創業年。愛仕達(78年)、民生銀行(80年)、蘇寧電器(90年)、万豊奥特(94年)、華誼兄弟(94年)、美徳斯邦威(95年)、阿里巴巴(99年)、易居中国(2000年)ほか。