日銀は8月30日午前9時から、「最近の金融経済情勢の動向を踏まえ、必要な金融調節事項の検討を行うため」という理由で、臨時金融政策決定会合を開催。円高対応で政府の経済対策と協調するタイミングで、追加金融緩和に踏み切った。臨時会合の開催はギリシャ財政危機に対応した5月10日以来。

 注目された追加緩和の内容は、事前の観測報道に忠実に沿ったもので、サプライズはなかった。昨年12月に10兆円規模で導入され、今年3月に10兆円上積みされた新型オペ(固定金利0.1%・3カ月物)に、今回新たに6カ月物を10兆円規模で上積みすることになった。決定は賛成多数で、反対者は須田美矢子審議委員。新型オペは、これで計30兆円になる。

 8月27日作成「想定される日銀の追加緩和カード」でコメントしたように、新型オペを増額する選択肢のメリットは「『広い意味での量的緩和』を海外投資家にアピールしやすい」という点で、デメリットは「長めの資金供給オペのシェアがさらに上昇するため、きめ細かなオペによる調整が一層困難になる」という点である。今回の追加緩和は、政府の経済対策と足並みを揃えての円高への対応が主眼である。日銀が資金供給量を上積みして「広い意味での量的緩和」を強化していることを海外の投資家にアピールしやすい新型オペの増額を日銀は選択する代わりに、短期金融市場の機能や円滑な金融市場調節は犠牲にしたと言うことができる。

 また、新型オペの増額分を6カ月物としたことのメリットは「短中期ゾーンの金利を低位安定化させる効果が若干強まる」という点で、デメリットは「先行きの金融政策運営の自由度が事実上低下する」という点。6カ月という、3カ月よりも長い期間について0.1%で資金調達できる魅力を有するオペを導入することで円滑に市場に資金を供給していこうとする狙いに加え、債券相場が8月27日から大幅調整していることもにらみつつ、短期金利の低下を促し(さらにはLIBORやTIBORについて低下を期待し)、間接的に為替の円高圧力を軽減する狙いがあろう。

 対外公表文で示された日銀の景気認識は、臨時会合であるがゆえに、詳細なものにはならなかった。景気の現状認識と先行き見通しの基本線は、「わが国の景気は緩やかに回復しつつあり、先行きも回復傾向を辿るとみられる」で、基本線は不変。しかし、公表文で日銀は今回、「この間、米国経済を中心に、先行きを巡る不確実性がこれまで以上に高まっており、為替相場や株価は不安定な動きを続けている。こうしたもとで、日本銀行としては、わが国の経済・物価見通しの下振れリスクに、より注意していくことが必要と判断した」と表明した。8月10日の金融政策決定会合で、下振れリスク重視の姿勢に切り替えるのをためらい、公表文で警戒姿勢を示すにとどめたことは、振り返ってみれば、日銀の失点だった。マーケットや米政策当局者の一部が示していた下振れリスク警戒姿勢に対し、日銀が後れを取ったことは明白である。

 また、政府との協調姿勢については、公表文に、「日本銀行としては、今回の金融緩和措置が、政府の取り組みとも相俟って、日本経済の回復をより確かなものとするうえで、効果を発揮すると考えている」という一文が盛り込まれた。さらに、金融政策の運営方針については、「中央銀行として最大限の貢献」を「粘り強く続けていく」とされ、従来よりも表現が強くなった。

 今回の決定内容は予想された範囲内ということで、市場の受け止め方は冷静。ドル/円相場は85円台後半から前半へと50銭程度円高ドル安方向に動いたが、大きな反応にはつながっていない。債券は、イールドカーブの足元のところを押さえつける力が強くなったことを好感し、10年債などに若干の買い戻しが入ったが、ポジションのしこりがある状態と推測されるため、一方向に買われていくとみるのは難しい。