「I can't breathe(息ができない)」と、エリック・ガーナーさんは何度も呻いた。それでも、警官はヘッドロックを緩めず、数分で殺してしまった。7月17日、ニューヨーク州での出来事だ。

 ガーナーさんは、路上で煙草を違法販売しているのではないかと疑われ、ニューヨーク市警の4人の警官に取り囲まれ、ねじり伏せられ、「息ができない」と11回言って、死んだ。

米各地で大規模デモ、警察による黒人殺害に数千人が抗議

黒人男性を死亡させた警察官が相次いで不起訴となったことに抗議するデモ行進 ©AFP/JIM WATSON〔AFPBB News

 通りがかりの人が、その一部始終をビデオに撮って、ネットにアップした。ビデオを見ればわかるがガーナーさんは丸腰だ。手には何も持っていない。職業は庭師で、6人の子供がいた。黒人。

 一方、殺した警官は白人で、以前にも黒人に対して暴行を働いたことがあったという。ところが、12月3日、アメリカのニューヨーク州・スタテン島の大陪審は、この警官を起訴しないと発表した。

 大陪審の審議は非公開で、1日で済んだ。殺人はおろか、過失致死の疑いもなし。

根深い米国の黒人差別、警官による殺害だけでなく冤罪も

 ニューヨーク市警では、逮捕の際に首を絞めることは禁止されているし、監察医も殺人と認めている。そのうえ今回は、ファーガソンの件とは違い、一部始終を記録している証拠ビデオまである(不思議なことに、ビデオをアップした人は、数日後、別件で拘束された)。とても法治国家での出来事とは思えない。

 ファーガソンの件というのは、今さら説明する必要もないかもしれないが、8月に、黒人の青年、マイケル・ブラウンさんが、ミズーリ州のファーガソンで白人警官に射殺された事件だ。

 こちらも武器は所持しておらず、ホールドアップしながら射殺されたというが、11月24日、大陪審は射殺した白人警官を不起訴にした。それ以来、アメリカ全土で抗議デモが止まない。そこに、今回のガーナーさんを絞殺した警官の不起訴決定が重なり、デモはますます大きくなり始めた。

 また、この発表のあった12月3日は、オハイオ州の公園でおもちゃのピストルを持って遊んでいて、白人警官に射殺された12歳の黒人少年の埋葬日とも重なった。葬儀では担任の教師が、「彼は一度も学校を休んだことがなかった」と泣いていた。