8月16日、米国防総省は「中国を巡る軍事・安全保障の動向(Military and Security Developments Involving the People's Republic of China)」と題する報告書を議会に提出した。

 2000年以来、米議会が毎年国防総省に提出を義務づけている文書で、昨年までは「中国の軍事力(Military Power of the People's Republic of China)」と呼ばれていた。今回は、この種の国防総省対議会報告書の「体験的読破術」をご紹介したい。

米政府内の意見対立

「ミサイル攻撃」と誤警報、愛知

航空自衛隊の「F2支援戦闘機」〔AFPBB News

 冒頭から私事で恐縮だが、筆者が米国防総省の公式文書を読み始めたのは、1988年北米局安全保障課でFSX(現在のF2)共同開発計画を担当した時だから、もう20年以上前になる。

 翌年からは地位協定課で2年間在日米軍の運用と基地問題、湾岸戦争の対米軍物資協力などに携わった。

 引き続きワシントンの大使館時代にもペンタゴンを担当、1998年からは日米安保条約課長として周辺事態法とHNS(在日米軍駐留経費負担)協定に関わった。

 振り返ってみれば日米安保だけで約10年、イラクでの2度の貴重な「実戦」体験を含めれば、役人生活の大半は戦争、テロ、日米安保、在日米軍の事件・事故、米中央軍の兵站・運用など安保関連の仕事ばかりだった。

 当然、国防総省の対議会報告に独特の「読み方」があることも体で学んできたつもりだ。

 脱線はこのくらいにして本題に戻ろう。本件報告書の提出期限は例年3月1日だが、今年は提出が半年近く遅れた。こうした場合、筆者ならまずオバマ政権内の対中政策を巡る議論の混乱を疑う。もちろん関係者は強く否定するだろうが・・・。

対議会報告書の読み方

 通常この種の意見対立は国務省、国防総省、国家安全保障会議(NSC)の間で起こる。もちろん例外はあるが、一般的には中国に厳しい国防総省と対中関係を重視する国務省が発表時期や表現方法で対立し、最後にNSCが裁定するというのがワシントンにおける省庁間協議のセオリーだ。

 特に本年は1月以降、グーグル、台湾への武器売却、ダライ・ラマ訪米などにより米中関係は急速に冷却化した。そうした状況の下で3月1日までに報告書を完成・公表することは物理的にも、政治的にも困難であったに違いない。