APEC会期中の11月10日、北京の人民大会堂で日中首脳会談が実現した。今回の会談は25分と短く、具体的な中味もほとんどなかった。とりあえず首脳会談が実現したというだけであり、これで日中関係が大幅に改善することは期待できない。
とは言え、日中首脳会談としては2011年12月以来約3年ぶり、安倍総理としては初めての日中首脳会談が実現した意義は大きい。
日中首脳会談の成果は何か
日中間の摩擦の火種となっている領土と歴史認識をめぐる問題について、元々両国の多くの有識者の間では、両国が納得できる妥協点を見出すことは不可能であり、唯一の落としどころは鄧小平氏が主張していた「論争棚上げ」しかないと考えられていた。
しかし、中国政府は日本側に対して、首脳会談実現の条件として、第1に、尖閣諸島の領有権を巡る論争が存在すること、第2に、靖国神社には参拝しないと公の場で発表することを求めていた。これは明らかに日本政府が受け入れられない要求である。
この要求条件をクリアして首脳会談を実現するためには、上記の2つの内容について、両国が自国に都合のいいようにうまく解釈できるようなレトリックをどう考え出すかにかかっていると見られていた。
首脳会談直前の11月7日、日中両国政府は4項目の合意文書を発表した。両国とも自国に都合がいいように解釈することが可能な玉虫色のレトリックが示され、一応問題の棚上げが成立した。
今回の首脳会談実現の最大の成果は、論争棚上げを可能にする合意文書を発表できたことかもしれない。この合意内容を否定するような対立が蒸し返されるようなことがない限り、当面は日中間で領土および歴史認識に関して政府間の交流を断絶させるような事態は起こりにくくなったと考えていいだろう。
両国を代表するトップ会合が実現した以上、行政部門間の交流を再開できない理由はなくなったはずであり、今後両国政府間交流は徐々に回復に向かうものと期待できる。これによって日中関係は、異常な没交渉の状態から必要な対話のできる正常な摩擦状態へと移行すると考えられる。
それに伴い、多くの日本企業が強く懸念していた漠たる不安が多少和らぐはずである。中国国内市場の需要増に応えるための工場新設ニーズ等がありながら、チャイナリスクを恐れる本社の意向で意味なくストップさせられていた多くの投資案件が動き出す可能性が出てきた。