フクシマからの報告を続ける。前回に続いて、福島第一原発事故による高濃度の汚染によって、避難で無人になった福島県・飯舘村の現況の話をする。

 前回は、田んぼに水を入れたら、モリアオガエルが産卵に戻ってきたという話だった。2011年3月15日、福島第一原発事故から流れ出た大規模な放射性プルームによって汚染された阿武隈山地は、人間が生態系の一部として共存する「里山」だった。人がいなくなって、カエルは産卵の場所を失った。今回は、その里山が原発事故で何を失ったのか、もう少し詳しく話をする。そして、その里山に除染作業が入ったとき、どんな影響があるのだろう。地元の農家の人の話を聞いた。

汚染地域でも立ち入りはできる不思議

 飯舘村小宮地区の農場で野菜の栽培を続け、その線量を測定してインターネットで公開している伊藤延由さん(70)の農場に行った。

 避難で人がいなくなった田んぼには、田植えの時期になっても水が入らなかった。そのためカエルが産卵の場所を失った。伊藤さんが田んぼに水を入れたら、モリアオガエルやツチガエルが産卵に戻ってきた。

 そんな話を前回書いた。

 「目黒さんが帰ってるみたいだから、寄っていきましょう」

 白い軽トラを運転する伊藤さんがそう言った。目黒さんは隣の農家だ。モリアオガエルのタマゴを見にいった帰りである。この山あいの集落では「隣の家」は歩いていくのがしんどいほど離れている。軽トラで行く。

 小宮地区は「立ち入りはできるが、住んではいけない」区域に指定されている。だから、ときどき村人が掃除や犬猫の餌やり、持ち物を取りに帰ってきている姿を見かける。考えてみると、放射性物質で汚染された一帯なのに、不思議な光景だ。日本の法律が原発災害の放射性物質が20キロを超えて飛んでいくことを想定していなかったためである。20キロ圏内が強制避難・立ち入り禁止になっていた時も、その外側(原発から30~50キロ)にある飯舘村は、汚染度は内側と同じくらいなのに「住んではいけないが、立ち入りはできる」という不思議な扱いだった。だから住民は村外に避難したあとも、宿泊しなければ自分の家に帰ることができた。今でも基本は変わらない。伊藤さんの農場は、原発から33キロだ。