米供給管理協会が8月2日に発表した米7月のISM製造業景況指数で、「総合(PMI)」は55.5(前月比▲0.7ポイント)になった。3カ月連続の低下で、2009年12月(54.9)以来の低水準だが、市場予想の中心だった54.1からは小幅の上振れ。筆者が気にしていたカンザスシティー連銀製造業指数(生産)のリバウンドが加味されたような結果になった。ただし、PMIの内訳を見ると、先行性がある「新規受注」が53.5(前月比▲5.0ポイント)へと大きく低下したことが目を引く。2009年6月(49.9)以来の低水準。PMIの上振れによる米債券相場への悪影響が、これによってある程度薄められたと考えられる。

 そのほかのPMIの内訳は、「生産」が57.0(前月比▲4.4ポイント)、「雇用」が58.6(同+0.8ポイント)、「入荷遅延」が58.3(同+1.0ポイント)、「在庫」が50.2(前月比+4.4ポイント)。PMIの内訳である5つの指数のうち、前月比で上昇したのが3つ、低下したのが2つという結果だった。

 PMIの内訳となっている以外の指数では、在庫の過剰感を示す「顧客の在庫」が39.0(前月比+1.0ポイント)、「輸出」が56.5(同+0.5ポイント)といった結果だった。

 すでに述べたように、「在庫」は50.2で、中立水準である50近辺にあり、在庫が急に増加している兆候は見当たらない。また、「顧客の在庫」は50を大きく下回っており、在庫水準は適正と考えられるレベルを大きく下回っていると考えられる。つまり、在庫の面で、いわゆる不均衡の蓄積は、少なくともこの統計上では見られておらず、米国の景気が一気に再後退に向かうと考えるのは現実的でないと言える(むろん何らかの急激なショックが米国の景気に加わるようなケースは別である)。

 また、ドル相場が対ユーロでドル高に反転しているものの、「輸出」は56.5という比較的強い水準を維持しており、今のところドル高による悪影響はあまり出ていないようである。

 8月2日の米国市場は、株高・債券安の展開となった。ISM指数が予想ほど悪化しなかったことに加え、米6月の建設支出が前月比+0.1%となり、市場が予想していた2カ月連続の減少にはならなかったこと、欧州の金融機関決算が好調な内容で欧州株が上昇したことも材料になった。

 ニューヨークダウ工業株30種平均は大幅高で、終値は1万674.38ドル(前週末比+208.44ドル)。株の大幅高に圧迫されたこともあって米国債は売り戻され、10年債利回りは2.96%、2年債利回りは0.57%まで、それぞれ上昇。30年債利回りは4%ラインを上回った。とはいえ、すでに述べたように、ISM新規受注指数の低下幅が大きかったことで、次回以降のISM指数低下に期待がつながれて、米10年債利回りはこの日は3%台に乗せなかった。一方、株高でリスク資産への投資意欲が強まったことを反映して、原油WTI先物が一段高。中心限月9月限の終値は1バレル=81.34ドル(前週末比+2.39ドル)になった。中心限月ベースで5月4日以来の高値である。

 7月28日作成「米長期金利はいったん『仕切り直し』へ」でも書いたように、筆者は引き続き、米債券相場については、「断続的な金利低下余地模索局面」がそろそろ一巡して、「金利低水準でのもみ合い局面」に移行しつつあるのではないかと考えている。構造不況に陥っている米国経済について、バブル崩壊の経験が深い日本人からすればどうしても違和感のある楽観論に傾斜していた市場の見方が、逆の方向(悲観論)へと、その「立ち位置」の修正を余儀なくされるステップはすでに、かなりの程度進んだ。むしろこの先は、悲観論の行き過ぎや過大な政策期待、およびその反動が警戒されるところである。

 いずれにせよ、米国および日本の長期金利が現行水準から一段と低下していくためには、市場の「目線」の低下度合いの「さらに先」を行くような、景気・物価指標面での予想外の大きなサプライズ(下振れ)が、どうしても必要になってくる。