AsiaX(アジアエックス) 2014年6月10日

 新鮮な野菜を飲食店などに届けようと、アローインダストリーズは3月、シンガポール北部アドミラルティーのハイテクスペースで野菜工場を設立、4月末から本格出荷を始めた。食料自給率が低いシンガポールで地産池消の野菜を届けるため、日本で普及している先端的な完全人工光型水耕栽培技術を利用したという。

 シンガポールで日常的に売られている野菜は多くがマレーシアや中国産。2005年から当地で暮らす、マネージングダイレクターの倉橋誠司氏は「農薬も気になるし、保管状態が悪くて味が悪いものも多い」と実感していた。

 一方、日系スーパーなどで買える日本産の野菜は空輸のため価格が高い。「その中間にはビジネスチャンスがあるのではと考えました」。そこで、2010年に同社を設立し、野菜の水耕栽培ビジネスに乗り出した。

 約5000万円を投じ、今年完成した野菜工場の面積は約193平方メートル。

 栽培棚で蛍光灯による人工光を使い、日本製の肥料を含んだ水を循環させて与える仕組みで野菜を育てる。雑菌や害虫の侵入を防いでいるため、無農薬で安全な野菜を生産することが可能になっているという。

 室内の温度は20~22℃で管理され、天候に左右されず年間を通じて収穫、出荷できるという。日本から取り寄せた種をまいて、育苗、定植を経て収穫されるまでは約33日間。現在は毎日約350個の商品を収穫、出荷できる能力がある。

「水耕栽培の野菜工場は日本ではすでに約200カ所あると思う」と倉橋さん。一方、シンガポールではまだ珍しい農業の形態だった。許可申請をした都市再開発庁(URA)には「農業をなぜビルの中でするのか?」と問われ、先駆者として説明に苦労したと話す。

ブランド名は「Let’s Yasai !」誇り持って日本の食文化を広めたい

 商品のブランド名は日本語と英語が混ざった「Let’s Yasai !(レッツ野菜!)」と名付けた。

 「反対意見もあったんですが、あえて野菜という言葉を使いたかった。寿司や天ぷらが英語圏で通じるようになったように、日本の野菜というものを世界で広めたいというのが僕の思いだったので」

 まずは、和食やイタリア、フランス料理、ホテルなど高級店を中心に販売予定で、初出荷の4月末時点で、すでに約70軒の飲食店と商談が始まっているという。

 現在出荷しているのは水菜、リーフレタス、フリルアイス、アスパラ菜、グリーンマスタード、ワサビ菜、レッドファイアの7種。顧客の要望に応じて、他の野菜やイチゴなど果物の栽培へも幅を広げる予定。

 イタリアやベトナムなどでの海外生活歴が約25年になるという倉橋さん。「客観的に見ても、日本ほど食事がおいしい国はない。日本人として誇りを持って日本の食文化をアピールしたい。和食が人気のシンガポールでも、是非、日本の新鮮・おいしい野菜を皆さんに味わってもらいたい」。

会社プロフィール

 アローインダストリーズは、「日本の質の高い野菜をシンガポールで現地生産する」マネージングダイレクターの倉橋誠司氏が2010年にシンガポールで設立。倉橋氏は元々、シンガポールの企業「スチールデベロップメント・インターナショナル」の社長として、ベトナムで鉄パイプ工場を運営しており、工場運営のノウハウを生かして水耕栽培の野菜工場設立を始めるに至った。

ARROW INDUSTRIES PTE LED
2 SHENTON WAY #17-02 SGX CENTRE 1 Singapore 068804
TEL:6532-1058
E-mail:info@arrowind.com.sg

取材後記

 大学でイタリア語を専攻後、出身地の京都でホテルマンをしていたという倉橋さん。その後、5大陸50ヵ国向けに特殊鋼管を販売する会社に転職し、13年間イタリアで働くことになったという。その後、来星してベトナムの工場と行き来する生活を送った後で、一昨年に全く違うジャンルの今の新しい取り組みを始めたという。

 実に多彩な経験の持ち主は、「野球選手がサッカー選手になるようなもんですな」と京都弁で笑うが、新しい挑戦の背景には、自身の25年以上になる海外経験があったという。

 「治安・人柄・文化・食生活。すべてにおいて日本はナンバーワンです。謙虚な姿勢はいいところでもあるけれど、日本人はもっと胸を張っていい。もっと売り込んでいいと思う」

 その実感は、営業を開始してからわずか2カ月でシンガポールの約70軒の飲食店などと販売契約を結んだことでも裏付けられたようだ。日本の最先端技術でナンバーワンのおいしい野菜を売り込んでいきたい、その思いが大きくビジネスを広げてくれることを期待したい。

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