ウクライナを巡り、欧州では依然として軍事的緊張が続いている。また、小欄でも幾度かお伝えしたように、ロシアは北カフカスから中央アジア、そしてアフガニスタンに至る地域でのイスラム過激派の動向にも神経を尖らせているところだ。

 だが、ロシアが安全保障上の重要正面と見なしているのは、西方および南方だけではない。北方、すなわち北極がもう1つの重要正面として急速に浮上しつつある。

北極海が重要な3つの理由

北極圏の永久凍土からのメタンガス漏出は「経済時限爆弾」 、研究

米国の衛星が撮影した北極海の氷〔AFPBB News

 ロシアにとって、北極海の意義は次の3点に集約できる。

 第1は、資源地帯としての意義である。

 ウラル・西シベリアの既存エネルギー資源地帯が生産のピークを迎えつつあるなか、ロシアとしては新規資源地帯の開発が急務になっており、この意味で膨大なポテンシャルを有する北極は「戦略的資源基盤」と位置付けられるようになった。

 第2に、戦略的な航路地帯としての意義が指摘できる。

 近年、北極海の氷が縮小し、特に夏期には一般船舶でさえ通航可能なルートが出現したことは、世界の海運に大きなインパクトをもたらしつつある。

 通航期間が限られていたり、途中の航路上に大都市が存在しないといった不利は指摘されるものの、極東と欧州の間を従来のスエズ運河経由の半分以下で結ぶことが可能となり、メリットはやはり大きい。

 第3の意義は、戦略核抑止に関するものである。

 地球儀を見れば分かるとおり、ロシアから米国へ弾道ミサイルを投射した場合の最短コースは北極上空である。また、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載したロシアの戦略原潜(SSBN)や戦略爆撃機が常時待機エリアとしているのも北極圏だ。

 近年のロシアが北極の安全保障に神経を尖らせ始めたのは、これら3つの意義のうち、第1点と第2点が新たに浮上してきたことに加え、これが第3点にも影響を及ぼし始めたため、とまとめることができる。

 まず第1点と第2点に関して述べると、ロシアは戦略的意義を持つ資源・航路地帯の防衛体制をほとんど一から再構築する必要に迫られた。