親の光は七光りという諺がある。しかし、社会的地位が高い、あるいは偉業を遂げた親の威光が子供の人生に与える影響は、必ずしも幸せなものだけではない。
ヴァルター・コール(Walter Kohl)さん(50歳)もその1人だ。ヴァルターさんは戦後最長の16年(1982年から98年)にわたり連邦首相を務め、ドイツの再統一を果たしたヘルムート・コール氏(84歳)の長男。
政治家として多忙な生活を送る父の背を見ながら育ったヴァルターさんは、偉大な政治家の息子というレッテルがいつもつきまとい、自分の人生を生きることができなかった。
学校ではいじめに遭いトイレに行くのが怖かった。テロの標的になるかもしれないと不安な時を過ごした。母の病気と自殺。再婚した父とは長らく断絶状態だ。やりきれない現実にヴァルターさんは母の後を追って自殺を考えた。離婚も経験した。
そんな中、ヴァルターさんは、自分自身の本当のアイデンティティーを求め、どんな危機に直面しても揺るがない自己を確立する術を見つけた。その答えは自分の心の中にあった。
政治家として躍進する父の陰で重圧に耐えた子供時代
ヴァルターさんの2冊目の著書、『Leben was du fühlt』(大意:自分らしく生きる)の朗読・討論会が開催され、そこで同氏は驚きの過去を告白した。
ラインランド=プファルツ州出身のヘルムート・コール氏は、日本の中高一貫校に相当するギムナジウム在学中からCDU(キリスト教民主同盟)に入党し、地元の青年団組織(Junge Union)設立に関わっていた。
ヘルムート氏は大学で法学・歴史学・政治学を学び、博士号を取得した。1966年、CDUのラインランド=プファルツ州支部代表と連邦代表委員の1人に選出されたヘルムート氏は、69年同州の州首相、73年CDUの党首を経て、82年に旧西ドイツの首相に就任した。
父が政治家として躍進するにつれ、母ハネローレ(Hannelore)さんと長男ヴァルターさん、次男ペーター(Peter)さんは、メディアの作り上げた「幸せな家族」というイメージとはかけ離れた生活をしていた。
月並みな言い方だが、父は政治と結婚したようなもので、日常生活のほとんどが父の仕事により決まり、コール家は他人によって誘導されていたと言っても言い過ぎではなかった。