我が国政府は、従来、一貫して「必要最小限度の防衛力」を保持すると言い続けてきた。その「必要最小限度の防衛力」とは、一体何を意味するのだろうか。また、「必要最小限度の防衛力」を保持しておれば、我が国を確実に守ることができるのであろうか。

必要最小限度の防衛力とは

 この疑問に答える、興味深い説明がある。それは、防衛省のホームページにある「予備自衛官制度」に関する次の説明である。

有事の時には、大きな防衛力が必要であるが、その防衛力を日頃から保持することは効率的ではない。このため、普段(平時)は、必要最小限度の防衛力で対応し、有事の時に必要となる防衛力を急速かつ計画的に確保することができる予備の防衛力が必要である。多くの国でも、この(予備役)制度を取り入れている。

 筆者なりに解釈すると、防衛予算の圧縮や経済産業など国家の諸活動に必要な人的資源の効率的配分などを考慮して、平時は、現役あるいは常備(以下まとめて「現役」という)として必要最小限度の防衛力を保持するが、有事には急速に大きな防衛力が必要となるので、それを補う防衛力を計画的に確保しなければならない。それが予備自衛官(予備役)制度である。

 また、「自衛隊は、我が国を防衛するための必要最小限度の実力組織である」との政府見解らかも分かるように、必要最小限度の防衛力とは、自衛隊の現有戦力のことである。

 この際、必要最小限度の防衛力とは、あくまで、極めてリードタイムの短い現代戦に即応するための初動対処に必要不可欠な防衛力である。有事の終始を考慮すれば、必要最小限度の防衛力のみで我が国を確実に防衛することはできず、大きな勢力の予備自衛官を充当して防衛力を急激に拡大する必要がある、ということになろう。

 つまり、「必要最小限度の防衛力」には以上のような意味が込められており、現在の我が国の防衛力の実態あるいは防衛体制の構造と限界を読み取ることができるのである。

 さらに、次のような追加の疑問が生じてこよう。

 もとより、必要最小限度の防衛力は軍事的合理性と必要性に基づいて算定・確保されているのか、予備自衛官(予備役)は有事に急増する防衛所要を補うに足る十分な勢力を確保するように計画されているのかなどであるが、これらについては後述する。

 他方、現代戦の特性は、ミサイル攻撃あるいは航空攻撃などによって、いきなり武力攻撃が始まる場合がある。

 一方で、例えば中国のように、平時から、「輿(世)論戦」、「心理戦」および「法律戦」からなる「三戦」という軍事闘争に、政治、外交、経済、文化などの分野の闘争を密接に呼応させた、いわゆるソフト・キルを謀略的に仕かけつつ、まずはサイバー空間における攻撃、特殊部隊によるゲリラ・コマンド攻撃などの非対称戦そして(核)ミサイルによる恫喝や攻撃などによって、国土の外周からというより、国土中枢から敵の侵攻が始まり、すでに国民は脅威の真っただ中に置かれているという場合などがある。

 そのため、国および国民は、敵国によるそのような脅威に対して、できる限り被害を局限し得るよう平素から各種手段を講じておかなければならない。その手段として、国防を真剣に考えている国は、敵の攻撃から直接国民を防護する機能として、非武装の民間防衛(Civil Defense)組織を整備している。