南シナ海の西沙諸島の海域で、中国が石油掘削装置(オイルリグ)を設置してから約1カ月が経過した。依然として、両国による衝突が続いている。
中国への抗議のための焼身自殺
ベトナム政府は、「5月初め以来、中国船の体当たりなどで破壊されたベトナム船が24隻に上り、乗員12人が負傷した」と発表。一方、中国政府は、「これまでベトナム船が1416回体当たりしてきた(6月7日午後5時現在)。中国の自制的態度に付け込んで、ベトナムが緊張をエスカレートさせている」と非難した。
5月23日の早朝、ホーチミン市の中心部でベトナム人の67歳の女性が中国への抗議活動と思われる焼身自殺を行った。小雨の降る中、朝早い時間に統一会堂の前にタクシーで乗りつけたベトナム人女性がガソリンをかぶり、その数分後に死亡したと報道されている。
女性は5リットルの容器に入れた石油をかぶり、自らライターで火をつけた。直前、「中国はベトナムの海から出ていけ」など中国に抗議する言葉を書いた紙を掲げていたという。普段は国民国家意識のきわめて低いベトナム人が、こうした極端な行動に出るほど、ベトナム人の対中国感情は悪化している。
今回の南シナ海での紛争は、ベトナムの外交戦略上の歴史的な転換点のきっかけになるとする見方がある。すなわち、「親中国」から「親米国」への外交方針の大転換である。
ベトナムには、明確な同盟国がない。
「我々は、一人ぼっちだ。経済的には日本なども助けてくれるが、政治的には一人ぼっちのままだ。望んでいないが、中国と付き合うしかないんだ」と友人の政府高官はかつて嘆いていた。その彼が、「今回の事件は、ベトナムが米国陣営に接近する絶好の機会だ」と語る。
ラオス国防相の墜落死に関する中国関与疑惑
前回の記事で、今回の南シナ海問題を多面的に見る切り口として、中国が南シナ海、中越国境、カンボジアの3方面からベトナムに政治的・経済的圧力をかけているという早稲田大学政治経済学部の坪井教授の見解を紹介した(「ベトナムに3方面から圧力をかける中国」)。
1つ目の南シナ海での軍事的圧力は、言うまでもない。
中国は、2つ目の中越国境ルートを通じて強い経済的な影響力をベトナムに行使している。中国は、ベトナムの輸出の9%、輸入の23%を占める最大の貿易国だ。中国からの大量の物資は、この国境ルートを通じて交易されている。