野間宏、武田泰淳らと並び第1次戦後派と言われる梅崎春生(1915~1965)の幻の長編小説『幻燈の街』が東京の小さな出版社から刊行された。
1952年4月から中国新聞、信濃毎日新聞などに150回連載された新聞小説。連載後、単行本として出されることがなく、全集にも収録されなかったのを、梅崎の研究者で、『梅崎春生 ユーモアと「幻」』の著者である柳澤通博さん(66)が梅崎の未亡人である惠津夫人の許可を得て、自ら主宰する木鶏書房という出版社から発刊した。
2015年が梅崎の生誕100年、没後50年にあたることや、高齢となった惠津夫人が元気なうちにお蔵入りされていた作品を「蔵出し」する、といった理由が出版の動機として挙げられている。しかし、終戦から間もない時期の東京を舞台にした帰還兵の物語がいま刊行されるのは、「震災後」と「戦後」との比較という問題が、編集者の意図とは別に提起されているように思える。
第1次戦後派が戦争とは何か、そして戦後のいまをどう生きるべきかを問うことで、戦後文学の出発点になったとすれば、震災から3年経ったいま、こうした戦後文学に光を当てながら、心の復興の道を探ることは必然のように思えるのだ。
戦争と震災に共通する喪失感
戦争と震災とは規模が違う。第2次世界大戦による日本人の死者数は、軍人と民間人を合わせて約300万人と言われるから、当時の人口の約4%になる。この中には、陸上での戦闘に巻き込まれた沖縄や、原爆を落とされた広島や長崎、大空襲で火に焼かれた東京のように被害が集中した地域もある。
一方、東日本大震災の死者・行方不明者数は2万人弱で、規模から言えばはるかに小さいかもしれないが、沿岸部に被害が集中しているため、市町村別に死者・行方不明者の人口比率を見ると、宮城県女川町や岩手県大槌町は8%に達し、岩手県陸前高田市は7%、岩手県山田町や宮城県南三陸町、同山元町は4%などとなっている。