5月19日、製薬企業のノバルティス社(以下ノバ社)は「慢性骨髄性白血病治療薬に関する4臨床研究についての社外調査委員会の報告について」と題して、調査報告書を公表した。
この調査報告書は、ノバ社が東京大学医学部附属病院で行われた4つの臨床研究に不正関与した問題について、ノバ社自身が社外調査を依頼し提出を受けた調査結果である。
今回の記事では、この調査報告書が作られることとなった経緯とともに、その内容を検討していきたい。
簡単な経緯
この調査報告書は先述のとおり、ノバ社が東大病院の臨床研究に不正関与した事例について、調査したものである。したがってノバ社が他の病院の臨床研究に不正関与した事例や、東大病院がノバ社以外の製薬企業と研究不正を行っていた事例については、今後の調査が期待される。
ことの発端となったのは今年1月17日から報道された、SIGN研究事件である。東大病院の血液内科と、同科に事務局を置く研究組織TCCが行った、白血病治療薬の医師主導臨床研究に、当該薬の製造元であるノバ社が不正関与していた事件だ。
SIGN研究事件が報道された3日後の1月20日には、ノバ社は社内調査により同社のSIGN研究への不正関与が有ったと公表、2月5日には同事件の社外調査を依頼する。
一方、東大病院はこの間長らく沈黙を保っていたが、3月14日に突如「慢性期慢性骨髄性白血病治療薬の臨床研究「SIGN研究」についての調査中間報告」と題して記者会見を行った。
この記者会見の質疑応答時間中に突然、出席していた門脇病院長が自発的に、東大病院においてノバ社が関わる臨床研究をすべて調査したところ4件で不正関与が認められた、と発表する。
したがって今回の4研究に関する公表は、東大病院の方がノバ社より早かったということになる。もっとも東大病院の内部調査は予備調査の中間報告であるにもかかわらず、その後の情報が途絶えてしまう。
これに対して、ノバ社は4月2日には社外調査委員会の最終調査報告書を受け、翌4月3日には記者会見を実施、この中で同社は今年の夏までに2011年以降に行われた医師主導臨床研究への不正関与をすべて公表すると宣言した。
この流れに従い今回第1弾としてノバ社の社外調査が、東大病院に関わる4件の臨床研究不正関与事件の調査報告書を提出した、ということになる。
内容の前提
この調査報告書は4件の臨床研究に対して、ノバ社のMR(医薬情報担当者)がどのように関与し、その結果として研究内容に影響を与えたのか、についてのみ検討している。
これは既にノバ社が厚生労働省から、降圧剤ディオバン®(バルサルタン)の不正関与事件で薬事法違反の誇大広告で刑事告発を受けており、その際の厚労省のロジックが臨床研究に不正関与しその結果として研究内容が改変され広告に利用されるというスキームで、これに対応したためと思われる。
本来、臨床研究への不正関与と誇大広告は別物であるが、厚労省はこのような法律論で刑事告発まで漕ぎ着けている。
もちろん研究内容に影響を与えていなかったとしても「個人情報の流出」や「患者さんの同意を詐取しての臨床研究実施」は当然問題とされるべきである。
感想の先取りとなってしまうが、この調査報告書は事実の調査は十分だが、法的な分析が物足りないように感じる。