今年3月、東京都江戸川区に完成した賃貸住宅を見学する機会を得た。スターツCAM(営業本部、東京都中央区)の企画、設計・施工による「防災賃貸マンション」の第1号である。

 都営新宿線、船堀駅から10分ほど歩き、その物件が目に入ると、外観は新築物件としては普通と変わらない、ややグレードの高い賃貸マンションという印象を受けた。
だが、この賃貸マンションの最大の特徴は、免震構造を採用している上、LPガスによる災害対応型エネルギーシステムを導入している点にある。

東日本大震災でも建物被害を免れた免震構造

防災賃貸マンション第1号「アネシス リアン」(写真提供:スターツCAM、以下特記のないものは同様)

 建物に近づいてみると地盤と建物の間に5cmほどの隙間があり、浮いているように見える。建物の躯体が「積層ゴム」と「すべり支承」*という免震装置の上に乗っており、地震の揺れを免震装置が吸収し、直接建物に伝えないようにする構造になっている。

*柱の下に設置されたすべり材が、滑りやすい処理をした鋼材の上を滑ることで、地震の揺れを建物に伝えないようにする装置

 スターツグループは、阪神・淡路大震災をきっかけに、建物や住戸内を守るだけではなく、生命を守るための免震構造の技術開発を始め、1999年に1棟目を受注、2004年にはこの物件と同じ高床(たかゆか)免震構造を開発し、翌年に特許を取得した。

 以来現在までに免震構造のマンションは288棟を受注、そのうち216棟が完成物件(2014年4月末現在)という実績を持っている。

地盤と建物の間の隙間(筆者撮影)

 東日本大震災では、仙台市内にある自社施工の免震賃貸マンションに、建物の損傷はほとんどなく、住戸内で物が倒れたり、落下したりといったこともなかったという。

 このように同社の免震構造物件は、東日本大震災でも建物自体まったく問題なかったが、インフラが止まり、入居者がしばらくの間、通常の生活ができない状態になったことを教訓に、インフラが復旧するまでのおおよそ3日間住戸内で生活できる賃貸住宅を開発することにした。

非常時の発電にも使用されるLPガスの採用

 そこで導入したのがLPガスによる災害対応型エネルギーシステムである。岩谷産業(本社、東京都港区)が開発したシステムで、防災賃貸マンションのガスは100%、LPガスでまかなっている。建物正面に面した敷地奥に、ガスバルクと呼ばれるLPガスの貯留タンクを地中に埋め込んでおり、そこから10階建て29戸全戸に供給している。

LPガスの補充口、この下にガスバルクが埋め込まれている(筆者撮影)