今年のユーロビジョン・ソング・コンテストは、「髭の美人」歌手コンチータ・ヴルストの優勝で幕を閉じた。
ウド・ユルゲンス以来、オーストリアに半世紀ぶりの栄冠をもたらしたドラッグクイーン歌手は、「受賞を平和と自由を信じる人々に捧げる」と語っているが、大会前から、昨年「同性愛宣伝禁止法」を成立させたロシアなどの保守層から強烈なバッシングを受けていた。
ユーロなのにロシアやイスラエルも参加
それは、性別適合手術を受けたダナ・インターナショナルがイスラエル代表として大会を制した1998年大会を思い起こさせるものでもあった。
「ユーロ」ビジョンと言いながら、EUとの対立が顕著なロシアや、イスラエルが参加、というのも何かしっくりこないかもしれない。
このコンテストへの参加要件は、ざっくり言えば、欧州放送連合(EBU)加盟放送局を持つ国であること。
そして、EBUは、地理的欧州を大きく越え、旧ソ連、地中海沿岸の北アフリカ・中東諸国、はてはサウジアラビアやイラクの一部までカバーしており、EUとは何ら関係ないのである。
そんな欧州外からの初エントリーは1973年のイスラエル。以後コンスタントに好成績を挙げているのだが、その参加はアラブ諸国を大会から遠ざけるものでもあった。
中東のショウビズ大国レバノンは、1970年代にも21世紀に入ってからもエントリーを試みているが、結局、全楽曲放送という大会規定とイスラエル国不承認の国家ポリシーとが相容れず断念している。
前年優勝国が主催という規定のなか、自らの事情でイスラエルが開催を断念、不参加を表明した1980年のモロッコがアラブ圏唯一の出場歴なのである。
1975年から参加しているトルコが、非アラブとはいえ、イスラム教徒が多くを占める国として周辺諸国の反発を考慮、79年のエルサレム大会をキャンセルした、という事実にもその根の深さが表れている。