これまでにもアジアで活躍する女性経営者をご紹介してきたが、今後は「海外で奮闘する美人経営者列伝」としてシリーズ化しようと思う。なぜかと言うと、彼女たちは若いながら海外でのビジネスを成功させているだけでなく、その活動を通して衰退へ向かっているように見える日本という国に、新たな成長へのヒントを与えてくれているからだ。

26歳の女性に「社長をお願いします」

ニューエラー・インターナショナルの社長、幸長加奈子さん

 最初に登場してもらうのは、タイで自動車部品メーカーを創業、美人社長として辣腕を振るう幸長加奈子さん。まだ三十路に入ったばかりの若い経営者である。

 2009年、アフターマーケット向けに自動車電装部品を製造販売するニューエラー・インターナショナルを共同出資者と一緒にバンコク郊外に設立、以来成長を続けている。

 このアフターマーケット市場に目をつけたのが、大阪に本社を置くニューエラーだった。日本で空圧機器や自動車電装部品のアフターマーケットメーカーとして開発から製造販売を行っている老舗だ。

 タイは誰もが知る“東南アジアの自動車工場”。しかし、新車市場は日本の大手メーカーががっちり押さえてしまっている。

 もし新車用の部品メーカーを立ち上げるとなれば、よほどの技術力がなければ難しい。しかも大量生産が必要になるため、それなりの工場を作るとなれば必要な資金も半端な金額ではない。

 ところが、タイのアフターマーケットは黎明期を迎えたばかり。タイ経済の成長と政府の支援策もあってクルマはお金持ちの乗り物から庶民の足へと変化を遂げている最中だ。そうなると、故障したときの交換部品は高い純正品よりも安い部品を欲しがる人が増える。

 一方、日本は若い人のクルマ離れもあって保有台数が減り、アフターマーケットはかつてのような成長が見込めなくなっている。一方で日本で育まれた安くて高い品質のアフターマーケット用部品技術は海外でのニーズが高まっている。

 ニューエラーは、ここに目をつけたわけである。すでにタイで電装品の販売を手がけていたものの製造まで始めるとなると問題となるのが経営者。いくら成長の条件が揃っているからと言ってもタイは外国である。経験の乏しい人材を日本から送り込んでは失敗する可能性が高い。

 慧眼だったのはニューエラーの会長だった。あとで詳しく書くが、当時知り合ってから間もなかった幸長さんに「共同で会社を設立しよう。ついては社長をやってもらえないか」と持ちかけたのだ。その時、幸長さんは26歳である。

 普通ではなかなかできない決断だろう。工業高校を卒業してすぐに単身タイに渡り、数々の苦労を重ねながらも自ら事業を切り開いていた幸長さんに経営者としての素質を見たに違いない。

 その狙いはぴたりと当たった。創業以来右肩上がりに売り上げを伸ばし、今から2年半前、手狭になった賃貸の工場から現在の工業団地に2700平方メートルの土地を購入して移ってきた。