ベトナムの歴史は対中抗争の歴史

南シナ海でベトナムに強硬姿勢、中国の狙いは 専門家が分析

南シナ海でベトナムの船艇に放水する中国海警局船(右)〔AFPBB News〕

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 ベトナムの歴史は、19世紀後半にフランスの植民地支配が始まるまでは、うんと大雑把に言ってしまえば、中国との戦いの歴史である。

 丁(Dinh)王朝が966年に初めて独立王朝を成立させるまで、ベトナムは約1000年にわたり中国の支配下にあった。

 ハイ・バー・チュン(チュン姉妹)やバー・チュウなど、今もベトナム主要都市の目抜き通りに名前を残すベトナムの古代の英雄は、中国との戦いで活躍した人々である(余談ながら、この3名の戦士は女性である。ベトナムは今でも女性の方が優秀な人物が多いが、歴史的に見て著名な将軍が女性だったということと相関がある気がする)。

 近代になって、同じ社会主義を標榜する国家が各々に成立してからも、両国関係は対立する。

 ベトナム戦争中、中国は北ベトナムに対して多額の軍事援助を行っていた。しかし、1972年、北ベトナムの頭越しに中国が米国と和解を進めたことで関係が悪化。北ベトナム軍は中国の進言を聞き入れず、武力で南ベトナムを制圧する。

 さらに、1979年にはカンボジアへの対応の対立をめぐり、中国軍がベトナム領内に短期間だが軍事侵攻した(中越戦争)。

 中越国交が正常化したのは、1991年。今からわずか20年前に過ぎない。しかし、その後も南シナ海の領土をめぐっての小競り合いが続いている。

 こうした歴史的な深い因縁は、現代のベトナム人に2つの影響をもたらしている。

 1つ目は、一般国民の圧倒的な反中国感情である。これは、昨今の日本人の対中感情の比ではない。日本人はいろいろな感情はありながらも、自分たちの思想の源流となっているかつての中国文明に敬意を持っている人も多いと思う。

 しかし、同じように中国文明の影響を多大に受けているベトナム人の間には、こうした考え方は希薄な印象を受ける。