「ラクダに接触しないこと、そしてラクダの生肉と乳を口にしないように」
4月29日、新任のサウジアラビア保健大臣は、MERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、国営テレビでこのように訴えかけた。
MERSコロナウイルスの感染者急増で対応に追われているサウジアラビアで、4月21日、アブドラ国王が保健相を解任するという異例の事態となった。前任の保健相が、「MERS拡大を抑える対策を強化する医学的理由は見当たらない。またジェッダでの感染急増は1年前も増加したことを考えれば季節的要因かもしれないが、その理由は分からない」などと無責任とも受け取れる発言をしていたからだ。
しかし、サウジアラビアでラクダとの接触を避けろと言われたら、物資の運搬をどうすればいいのか。観光産業にとって大きな痛手となるし、ラクダの肉や乳の摂取の危険性を訴えれば多くの国民が反発するだろう。
「サウジアラビアでラクダを否定することは、歴史的に見て大胆な政策である」とその重大性に注目するのは、「パンデミック(感染症の世界的流行)アラート」をネット発信する外岡立人氏だ。外岡氏は、北海道大学医学部を卒業後、ドイツのマックス・プランク免疫生物学研究所で基礎免疫学を研究し、2001年から小樽市保健所長となり(2008年に退職)、2005年にパンデミックアラートの前身である情報サイトを立ち上げた。
WHO事務局長が「現在、最大の懸念は新型コロナウイルス」
「MERS」とは「Middle East Respiratory Syndrome」の略で、WHOには2012年9月に初めて報告された(感染者の入院は6月13日、死亡は6月24日、サウジアラビアのジェッダ)。感染者は重症の肺炎と急性の腎不全を併発する。2014年4月時点での感染者数は424人、死者数は131人(致死率約30%)。感染者及び死亡者の大半はサウジアラビアで発生している。年齢別には50代前後が多く、60歳以上での致死率が高い。今のところ有効なワクチンも治療薬もなく、専門家は謎の解明に苦慮している。
コロナウイルスと言えば、2003年の「SARS」(Severe Acute Respiratory Syndrome、重症急性呼吸器症候群)の世界的な流行が鮮烈に記憶に残る。2002年冬に中国で発生し、翌年夏に制圧宣言が出されるまでの間に世界中で約8000人強が感染し、約800人が犠牲となった。