「ASEANの2度の危機はいずれも中国が助けた。南シナ海問題で反中になることはあり得ない」──。 4月2日付の中国紙「環球時報」はこのような見出しの記事を掲載した。

 その中で中国政府高官は、「1997年のアジア金融危機では、中国が人民元の切り下げを踏みとどまったことにより、東南アジア経済を安定させたことをASEAN諸国が忘れるはずがない。2008年の世界的な金融危機の際も、中国は巨額を投資して経済を刺激し、ASEAN市場の安定を守った。2度の危機とも中国の力がなければASEAN諸国の今の情勢はなかった」と指摘する。その上で、「フィリピンは米国の手先になりたいようだが、それには元手が必要。ASEAN諸国は様々な矛盾を平和的に解決する智恵があるものと信じている」と語っている。

 「カネで国際紛争は解決できる」と言わんばかりの主張だが、筆者と同様、多くの読者も違和感を覚えるのではないだろうか。

外交で「カネの力」を振りかざす中国

 「中国人は今でも古典(孫子の兵法等)に書かれた戦略の智恵が優れていると頑なに信じ込んでいるため、主権国家から成り立つ現在の国際社会に適応できない」と懸念を示しているのは、米戦略問題研究所(CSIS)の上級アドバイザーであるエドワード・ルトワック氏だ。

 中国は、「戦国時代」の名残り、すなわち同一文化的な規範を異文化間の紛争に適用してしまう。その第1の表れが、「国際関係においても無制限にプラクマティズム(実際主義、実利主義)を使ってもよい」と考えている点だ。

 衝突が起こった際、これが同一文化内であればカネで解決できるかもしれない。だが、異なる文化の間で起こった場合には、長年にわたる敵愾心を簡単に生み出すことになるということが中国人には理解できないようだ。

 日本との関係でも同様のことが起きている。2010年9月尖閣諸島付近の海域をパトロールしていた海上保安庁の巡視船に、違法操業をしていた中国の漁船が衝突した事件である。