先頃、パリのオペラ座で「kaguyahime」が上演され、話題を呼んだ。これは日本人なら誰もが知っている昔話「かぐや姫」をもとにしたバレエで、世界的に活躍した現代音楽の作曲家、石井真木氏の作品が核になっている。

パリ国立オペラ座で初の公演

公演を知らせるポスター

 雅楽と和太鼓といった日本古来の音楽と西洋のパーカッションとを融合させた石井作品「輝夜姫」が創られたのは今から四半世紀ほども前のこと。

 この曲は間もなくバレエ音楽として、振り付けがほどこされることになるのだが、1988年には現代を代表する振付師の1人、ジリ・キリアン氏が手がけ、これが今回、私たちがパリで目にする舞台のもとになっている。

 そもそも、和太鼓とバレエの共演というのは、ちょっと聞いたことがない。冒頭に書いた作品の経緯を私が知ったのは、実際には、このスペクタクルを見終わった後のことで、正直なところ、予備知識は一切なく、これまでには前例がないものと思っていた。

 しかし、実のところは今回が初演ではなく、かなり前に上演されていたわけなのだけれども、パリの国立オペラ座のバレエ団の公演としてはこれが初めてのことで、雅楽と和太鼓の演奏者がすべて日本からやって来るというのも初めて。

時代や国を超越した“かぐや姫”

「KAGUYAHIME」が上演されたバスティーユのパリ新オペラ座

 つまり、かなり多くの人々に新鮮な驚きをもたらす試みであったことには違いない。

 1カ月以上に及ぶ公演も終盤にさしかかったある日、友人に誘われて、私も観客の1人になった。パリにあるオペラ座の2つの劇場のうち、よりモダンで収容人数の多いバスティーユの新オペラ座が会場だった。

 開演を知らせる長いベルが鳴りやんで、客席のライトがすっかり落ちて真っ暗になったところに、3人の奏者による雅な音色が響き、闇と静謐の中から物語は展開し始める。

 日本人としては、1000年以上も昔に起源を持つこの慣れ親しんだ物語を、モダンバレエとして、しかも外国人がいったいどのように表現するのかというのが大いに興味深いところ。

 果たして、目の前で繰り広げられる舞台には、十二単やおすべらかしといったイメージは一切なく、どこか宇宙的と感じるまでに、時代や国の色を超越したものに仕上げられていた。

 いたってシンプルな、飾りけのない衣装に身を包んだバレエダンサーたちの、研ぎ澄まされた身体の形と動きの美しさ、高い天井を最大限に生かした舞台装置や照明の効果。あらゆる要素が一流であることはいうまでもないのだが、この夜、そこにいた多くの人の臓腑と魂を揺さぶるほどの驚きと感動をもたらしたのが、和太鼓の響きである。