核に取って代わる抑止力に

 そもそもアメリカが極超音速飛翔体をはじめとする極超音速兵器の開発に取り組んでいるのは、現実的な抑止効果に疑問符を付けざるを得なくなっている核抑止力に取って代わる“現実的抑止力”を手に入れるためである。

 米軍ではこのような抑止力を“Prompt Global Strike(PGS)”と呼んでおり、世界中の攻撃目標をアメリカ本土から1時間以内に、非核爆薬弾あるいは運動エネルギー弾によって、極めて正確に攻撃する能力を意味している。

 実際に、アメリカに限らずある国がPGSのツールとしての極超音速兵器の開発に成功すると、その国は「軍事力に革命をもたらすことになり」(ロシア副首相ドミトリ・ロガージン)まさに核抑止力に取って代わる次世代抑止力を手にすることになるのである。

 このような理由により、アメリカがPGS用兵器の開発に着手すると、それに呼応してロシアも極超音速兵器の開発に着手してPGS能力を手に入れアメリカに対抗しようとしている。アメリカとロシアだけでなく、インドもこの分野での研究開発に着手していることが確認されている。

 そこに、今回、中国が極超音速兵器開発に関わっていることが明らかになり、それも極超音速飛翔体の飛行実験段階に達していることが確認されたのである。

 近時の中国での兵器開発状況から判断すると、中国が極超音速兵器開発分野においてイニシアティブを取ってしまうかもしれない、との危惧も生じている。そして「中国は、積極的にアメリカの軍事力と正面切って対決可能な軍事力を希求している」(中国軍事専門家、リック・フィッシャー、IASC)といった警告も少なからず上がってきている。

 まさに、アメリカ政府は、中国との対話路線を強化する代わりに、全面的にではなくとも必要分野において中国軍事力に対して決定的優位性を保ちうる軍事能力の構築を推進しなければならない状況に直面しているのである。