オランダのウィレム・アレクサンダー国王は先月17日、2014年の政府予算案提出に伴って議会で演説し、「20世紀型の福祉国家は終焉し、『参加型社会』へ変遷している」と話した。演説の草稿は内閣が作成しており、この内容は国家施策の政府方針を直接国民に通達するものとなっている。

 国王が言う、つまりオランダ政府が目指す「参加型社会」とは、国家の財政難により労働市場対策や公共サービスは賄えないので、国民は自助努力で何とかせよということだ。これまで国の福祉の保護下にあった失業者、病人、障害者、貧困層や年金受給者などへの保障が打ち切られ、その責任を国民とその家族が担うことが期待されていることになる。

福祉国家に別れを告げるオランダ

 オランダはこれまで「大陸型福祉国家」と言われる福祉システムを取っており、国家の社会保障制度は手厚い。昨年の国内総生産(GDP)に占める福祉支出(教育関連費を除く)の割合は24.3%で、北欧諸国ともほぼ拮抗するレベルだ。ちなみに日本は16.9%である。

 なのだが、国王の演説後に提出された2014年予算は財政赤字削減のためとして60億ユーロ(約8000億円)の追加緊縮策が盛り込まれており、社会保障が大幅に削減される見通しだ。

 こうしてオランダは、今年4月に退位したベアトリクス女王の後を継いで即位したばかりの国王の口を通じて「もう福祉国家を辞める」と宣言したわけである。

 このスピーチについて、英フィナンシャル・タイムズ紙は「緊縮策が一時的なベルトの引き締めではなく、『小さな政府』への恒久的な移行だとして議会に提示された。オランダ政府は、この10年間1960~70年代に構築されてきた包括的な平等主義的社会モデルから距離を置いてきたが、この傾向を体系化した形だ」と書き、オランダの現状を追認したものだとしている*1

 上記の国王演説について報じたマドリッドの日刊紙ABCは、これを「福祉国家」と彫られた墓石の前で、悲しみに沈む高齢者夫婦が描かれた挿し絵を添えて報じている。

 福祉国家はもう、現状を維持できないレベルに達したのか。欧州福祉国家は死んだのか。

オックスファムの9月リポート

 国連や欧州連合(EU)、国際通貨基金(IMF)などの各国際機関が欧州の経済指標の統計や見通しなどのリポートを毎月発表しているが、そのどれもが欧州の危機が深刻化していることを明確に示しているようだ。

 IMFは8日公表した最新の世界経済見通し(WEO)で、新興国の展望悪化を理由に世界の成長率予測を2.9%と予測した。これは6回連続の下方修正だ*2

*1http://www.ft.com/intl/cms/s/0/934952a6-1fad-11e3-aa36-00144feab7de.html#axzz2iwFOylJ0

*2http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2013/02/pdf/text.pdf