誕生してから半年余り経つ習近平政権が、徐々にその執政方針を見せ始めた。一言で言うと、経済的には一層の自由化を進める代わりに政治的には共産党の指導体制をさらに強化する、ということのようだ。

 海外の中国ウオッチャーの間では、習近平国家主席を、蒋介石の後を継いだ息子の蒋経国氏と比較する論調がある。蒋経国氏は蒋介石没後、「党禁」と「報禁」、すなわち「野党の活動の禁止」と「自由な新聞報道の禁止」を解除した。蒋経国氏のこの大胆な改革は、のちに台湾の民主主義の礎を築き上げたと言われている。

 同じ中国人である以上、台湾で実現できた民主主義が中国大陸で実現できない理由はない。海外の研究者の間では、習近平国家主席は任期中に民主主義の実現を目指すのではないかと期待され、その第一歩は「党禁」と「報禁」の撤廃であろうと見られている。

 しかし、その実現まではほど遠い。中国で党禁と報禁を撤廃すると共産党批判に拍車をかけることになり、共産党の求心力は一層低下する。共産党はその事態を恐れている。

 台湾では、民主主義の実現と引き換えに国民党は下野してしまった。中国共産党に政権を失う心の準備ができているとは思えない。もしも民主主義の実現と引き換えに共産党が下野してしまえば、習近平の身に危険が及ぶことも心配される。

共産党幹部の腐敗はなくならない

 旧ソ連が崩壊し、冷戦の終焉から20年以上経過した今、計画経済の正統性を堅持する者はほとんどいなくなった。中国指導部で計画経済への逆戻りを主張する者はもういない。

 中国は脇目を振ることなく経済の自由化を進めている。だがそこで問題となるのは、プロジェクトの許認可権や国有企業の人事権および政府買い付けの権限を独占的に握る共産党幹部が、国民の監督・監視をまったく受け入れないということである。その結果、贈収賄や横領などで腐敗してしまう。

 経済の自由化を進めれば、人々のやる気が喚起され、マクロ的には経済成長につながる。だが独裁政治では、経済成長の成果を公平に分配することができない。最近、裁判にかけられた薄煕来前重慶市党書記と前鉄道部長(大臣)劉志軍はその典型例と言える。中国の1人あたりGDPはまだ6000ドル程度だが、共産党幹部は収賄と横領で数億円を蓄財する。