スターはただいま化粧直し中。そのためだけに用意されたバックヤードをそっとのぞかせていただくと、ちょうど右羽の美白用パックが乾燥しつつあるところだった。
訪問者が年間1000万人に迫るルーブル美術館の「スター」
スターとは、ルーブル美術館を代表する所蔵品、『サモトラケのニケ』。つまりこの重要な作品が、この9月から2014年夏までの予定で修復作業に入っている。ということは、期間中にルーブルを訪れても、残念ながら「ニケ」は拝めない。
だが、この世界的な名声を誇るスターとお近づきになる企画が、同時に進行中なのである。
2年半ほど前、このコラムのなかで、「Tous mécènes !(みんながメセナ)」というルーブル美術館の取り組みをご紹介した。
所蔵品の絵画、ルーカス・クラナッハ『三美神』の購入にあたって、一般から広く寄付を募るという前代未聞の試みだったが、今回の修復にあたっても、「みんながメセナ」が行われている。
前回と違うのは、対象となる作品の知名度が群を抜いて高いこと、そして、日本の篤志家にも呼びかけが行われているという点だ。
『サモトラケのニケ』は、ギリシャのサモトラキ島で1863年にフランス人が発掘した彫刻作品。「ニケ」とはギリシャ語で「勝利の女神」の意味だそうで、紀元前2世紀に何らかの海戦の勝利にちなんで制作されたと推定されている。
発掘の翌年にはルーブルに運ばれ、1866年から一般公開されてきた。後に発掘された台座ともども『ダリュの大階段』に据えられたのは1883年のこと。
この階段は美術館のなかでも最もプレステージの高い大階段であり、『モナ・リザ』をはじめとする絵画の間のスタート地点にもあたるから、『ニケ』はルーブルを訪れるほとんどすべての人の目に焼き付けられたと言っていいだろう。
人の波をかき分けながら、これをバックに記念撮影をした人も少なくないのではないだろうか。