さんまの季節がやって来た。多くの食材の季節感が失われたなか、さんまはいまも旬を味わえる海の幸だ。
8~9月頃、千島列島沖の北太平洋を南下し始め、11月に銚子沖へやって来る。日本海側を南下してくるものもいる。秋が深まるにつれさんまの体に脂が乗る。焼けば煙を立ててこんがりと香ばしい。その後、11月下旬頃からの産卵期を迎えると脂は急に落ちる。脂の乗った新鮮なさんまは、秋のこの季節しかないのだ。
旬なさんまを味わえるのは、漁でさんまを獲るからこそ。しかし、漁師がさんまを実際どう獲っているのか、一般人にはなじみが薄い。そこにはきっと技術革新もあるはずだ。
そこで今回は「さんま」をテーマに、日本人の食としての接し方と、漁の仕方を、過去から現代にかけて追っていく。
前篇では、日本人のさんま食の歴史とともに、さんま漁の技術の変遷を見ていこう。
後篇では、現代におけるさんま漁の技術革新に焦点を当てる。実はここ5年ほどで、さんま漁は大きな変化を遂げたという。現代のさんま漁に変革をもたらした東京海洋大学の稲田博史准教授に話を聞くことにする。
「さんま」の表現の仕方は様々
「さんま」という言葉には、由来、当て字、方言からして様々な側面がある。
呼び方の由来では、細長い魚の意味の「狭真魚(さまな)」から来たという説、「たくさん」を意味する「さん」と「うまい」を意味する「ま」で「さんま」となったという説などがある。当て字にも「秋刀魚」のほか、かつては「秋光魚」「秋水魚」「青串魚」、さらに「小隼」「三馬」「三摩」などが使われていた。
和歌山から四国や広島にかけて、さんまは「祭魚(さいら)」と呼ばれてきた。大漁祈願に備えた魚の呼び名だ。和歌山ではほかに「さより」とも呼ばれ、また、長崎では「さざ」、また新潟では「ばんじょ」と呼ばれてきた。