日本維新の会共同代表の橋下徹・大阪市長が再燃させた「従軍慰安婦」問題。1990年代初めに大きく表面化して以降、この問題は韓国から世界に広がり、日本は「性奴隷を強制した国」という暗いイメージが定着しつつある。

 橋下氏は「それは事実とは違う」と発言した。だが、米軍に風俗産業の活用を勧める発言が伴っていたこともあって強い非難が起こり、米国政府の怒りを買った。結果として日本は人権を軽視する国という負のイメージが強化された面がある。

 だが、秦郁彦氏の労作『慰安婦と戦場の性』(新潮選書)などにあるように、韓国人慰安婦について日本軍による強制連行の証拠がないのも事実。また、第2次大戦当時や朝鮮戦争、ベトナム戦争時など、慰安婦制度が日本以外にも幅広く存在したことを示す史料が多数見つかっている。

ユーチューブ上の英語スピーチで賛否両論の反響

 日本の「汚名」を晴らし国際社会で「名誉ある地位」を得るため、日本はどうしたらいいのか。

 ブロードキャスター、映像ディレクター、海外テレビ番組の司会者など内外で活動する谷山雄二朗氏は昨年9月、「慰安婦問題の真実」について英語のスピーチ(Geisha,Tony Blair & Comfort Women)をユーチューブで発表、賛否両論を巻き起こし今日に至っている。

 「対外広報機関を作り、中東のアルジャジーラのような放送局やインターネットテレビを作り、正確な歴史史料とともに日本の主張を英語で世界に発信することが肝心です」と言う谷山氏に、日本の国益に沿った情報発信のあり方を語ってもらった。

**************************

谷山雄二朗 (たにやま・ゆうじろう)氏 ブロードキャスター。Japan Broadcasting.net Founder CEO. 小学校時代は南オーストラリアのアデレード、中学時代はタイで生活。慶應微塾大学経済学部卒。英国BBCやITV, オランダRTL, 中国 Hunan-TV など海外テレビ番組に司会者・俳優として出演。映像クリエーター、通訳、作家としても活動。2011年、国際化を訴え東京都知事選に出馬。10,300票獲得するも落選。2012年から尖閣諸島、竹島、慰安婦などをテーマに英語スピーチを開始、YouTubeで発表。内外から賛否両論の反響を受けている。http://JapanBroadcasting.net

井本 2007年の第1次安倍内閣で「日本は軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった」という閣議決定がなされました。「強制連行はなかった」というのが公式見解なのに、なぜ世界的な非難が収まらないのでしょうか。

谷山 この問題で日本はスタートラインからずっと負け戦なんです。政府、外務省は有効な反論をほとんどせずに謝罪ばかりしてきました。

 慰安婦問題がマスコミで大きく騒がれて以降、1992年に宮沢喜一首相(当時)は韓国で謝罪を繰り返し、93年には有名な河野談話が出た。河野洋平官房長官(同)による軍の関与があったかのような謝罪談話です。これが致命的でした。

井本 河野談話は2007年の閣議決定と矛盾するのに、今も政府は見直しをしていない。

 だから各国の政府やマスコミ、国連は「強制連行の証拠はないと言っても官房長官は軍の関与があった」と言っているじゃないかと反論する。そこで保守派の間から「河野談話を見直すべきだ」という意見が強まっています。

谷山 政府が反論せず謝罪ばかりしてきたツケを今、日本人全員が払わされています。

 福島の原発事故に例えると、慰安婦問題がゆがんだ形で「水素爆発」を起こした後、その「放射性物質」が世界に飛び散ってしまった。「除染」はきわめて困難です。

勝敗の分岐点だったスマラン慰安所のオランダ女性強制売春事件

 最大のポイントは河野談話ですが、実はもう1つ重要なことがあります。1994年1月のオランダ人慰安婦による東京地裁への提訴です。インドネシアのスマラン慰安所の強制売春事件ですね。その前の92年に被害者の1人が体験を公表しています。今から思うと、あれが勝敗の分岐点でした。

 日本は竹島問題で国際司法裁判所(ICJ)に提訴すると言っていますね。そのICJがあるのはオランダです。“国際法の権威が集結する 国”の女性が「戦時中強制連行され慰安婦にさせられた」と訴えた。これが世界に与えたインパクトは大きかった。このケースは売春宿で働いている女性が戦場の慰安婦となった韓国人とは決定的に違います。