年明け20日の就任式を控え、オバマ次期米大統領は景気刺激策の取りまとめに忙殺されている。総額8500億ドル(約80兆円)とも言われ、1930年代の大恐慌でフランクリン・D・ルーズベルト大統領が断行した「ニューディール」対策以来の規模になるという。21世紀の「新」ニューディールは、果たして米経済の救世主となるのか。
「こんなのやったって効くわけない。日本の常識は世界の非常識なのさ」。十数年前の平成バブル不況の真っ只中、大蔵省(現財務省)で景気対策を取材していた折、主計局のキャリア官僚がつぶやいた言葉を思い出す。
「財政出動で有効需要を創出せよ」というケインジアンたちの大合唱の下、日本全国にばらまかれた公共事業。景気の底割れを防ぐ一方で、ゼネコン延命につながり、銀行の不良債権処理が遅れた。「失われた10年」脱出の起爆剤とならないばかりか、残されたのは借金の山。日本の国と地方の長期債務残高は今年度末に778兆円に膨らむ見通しとなり、国内総生産(GDP)比では148%に達する。無論、先進国では最悪の水準だ。
「魔法の薬」、8500億ドルが「相場」に
そして今。金融危機下のリセッション(景気後退)にあえぐ米国で、「economic stimulus package(景気刺激策)」が話題に上らぬ日はない。公共事業が中心の景気刺激策が、未曾有の金融・経済危機を一気に解決する「魔法の薬のように見られている」(ウォールストリート・ジャーナル紙)。
オバマ次期大統領は当選直後、米国は「デフレスパイラルに陥る恐れがある」と警告を発し、公共事業と減税を柱とする景気刺激策を打ち出す考えを表明。2011年1月までに300万人の雇用を確保・創出し、「強い経済のための土台を築く」と約束した。道路や橋、学校など公共インフラの補修・新設、ブロードバンドといったIT投資、「グリーンジョブ」と呼ばれる環境関連投資のほか、中間・貧困層対象の所得減税の実施を行うというものの、その全貌は明らかになっていない。
次期大統領の指示を受け、ティモシー・ガイトナー次期財務長官(現ニューヨーク連銀総裁)やローレンス・サマーズ次期国家経済会議(NEC)委員長(元財務長官)、ピーター・オーザッグ次期行政予算管理局(OMB)長官(現議会予算局=CBO=局長)、クリスティーナ・ローマー次期大統領経済諮問委員会(CEA)委員長(現カリフォルニア大学バークリー校教授)の居並ぶ経済チームが、大詰め作業を急いでいる。
連邦準備制度理事会(FRB)は12月17日、ついに初のゼロ金利政策を導入。長期国債買い切りの検討も表明し、量的金融緩和へ移行する臨時異例のスタンスを打ち出した。FRBが未知の領域に入る中、次期大統領は「伝統的な金融政策は限界に達した」と述べ、財政出動による景気刺激策の出番を強調している。
次期大統領は、景気刺激策を「最優先課題」に据え、議会と協力して就任直後に実施したい意向。上下両院で多数派の民主党は、景気対策法案の早期成立に全面協力する姿勢だ。
オバマ氏自身は口を堅く閉ざしているのに、米メディアが報じる景気刺激策の規模は日ごとに膨れ上がり、一時は最大1兆ドルとの観測すら流れた。さすがに政権内部でも慎重論が出たらしく、現在は8500億ドル前後というのが米メディアの「相場観」となっている。オバマ氏に助言してきた、今年のノーベル経済学賞受賞者プリンストン大学のポール・クルーグマン教授は「インフラ整備による景気刺激策は有効だ」と断言。何もしなければ失業率が9%(現在6.7%)を超えるのは確実となり、8500億ドル規模の刺激策では足りないとまで主張している。