過去10日間ほど、欧米メディアで「NSA」に関する報道を見ない日はない。日本語ネット上で「NSA」を検索すると、「日本サーフィン協会」や「日本ソフトウエア産業協会」がヒットする。だが、英語で「NSA」と言えば、最初にヒットするのは米国の National Security Agency(国家安全保障局)だ。

監視プログラムでテロ計画50件超を阻止、米国家安全保障局長

米下院情報特別委員会の公聴会で証言するNSAのキース・アレグザンダー局長〔AFPBB News

 NSAは、知る人ぞ知る、外国電子データ収集が専門の米国諜報機関。1999年まではその存在自体極秘だった。

 今でこそwww.nsa.govなるサイトが公開されているが、つい最近までは「NSAとは No Such Agency(そんな部局はない)の略」というジョークがあったほど秘密のベールに包まれた組織だ。

 今回はこのNSAの秘密諜報活動暴露事件と中国との微妙な関係について考えてみたい。(文中敬称略)

スノーデンとは何者か

 6月5日から英有力紙ガーディアンが衝撃的な記事を掲載し始めた。NSAが米国における電話通話記録だけでなく、電子メールのやり取りやウェブ検索の内容など様々な個人情報を、秘密裏に、リアルタイム、かつ大量に収集していたことが暴露されたからだ。

 さらに、12日には米国政府の面子を潰す記事が出る。サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙が、「2009年以来NSAが中国と香港にあるコンピューターをハッキングしていた」と報じたのだ。直前の米中首脳会談で米側が中国の対米サイバー攻撃を厳しく批判したばかりだから、洒落にもならない話である。

 一連の記事のニュースソースはすべてエド・スノーデンという29歳の米国人。各種報道によれば、過去10年間米中央情報局(CIA)やNSAで諜報活動に従事してきたスノーデンは、次第に米国の諜報活動のあり方自体に疑問を抱くようになり、今年になってNSA秘密活動の公表を決意したという。

 5月中旬、NSA関係の大量の機密情報とともに、彼は自宅のあるハワイから香港に移動し、その後一連の暴露記事が流れ始める。彼に関する米国内の評価は大きく分かれた。保守派が「売国奴」スノーデンに対する刑事訴追を求める一方、リベラル派は「勇気ある告発者」として彼を絶賛している。

 スノーデンの年収は12万ドル、一時は20万ドル稼いだそうだ。コンピューター技術者として認められ、ハワイの自宅でガールフレンドと一緒に住んでいた。29歳の元中卒エンジニアとしては上出来だろう。

 では、なぜ今になって彼は米国の最高機密を漏洩したのか。多くの識者が訝しく思ったのも当然だ。