図1 ASMLの企業別シェアの推移、出所:電子ジャーナル『半導体製造装置データブック』(1994~2012年)

 半導体の微細加工装置の1つ、露光装置分野では、オランダのASMLが独走態勢を築いている。

 1990年代前半には、ニコンとキヤノンが合計で80%のシェアを占めていた。ところが、オランダのASMLが、2000年以降に韓国および台湾を中心にシェアを拡大し、2012年には世界シェア約80%を独占するに至った(図1)。

ASMLの露光装置の秘密とは

 このASMLの露光装置の競争力の源泉はスループット(1時間当たりのウエハ処理枚数)と稼働率にある。ところが不思議なことに、カタログスペックを各社のホームページで調べると、ASMLが175枚/時間、ニコンが200枚/時間と書かれている。スペック上ではニコンの方が、スループットが高い。

 しかし、半導体の量産工場の声を聞くと、ASMLのスループットは抜群であるという。だからこそ、世界シェア80%と圧倒的な売れ行きを示しているわけだ。

 この謎を解くカギは、装置の“機差”にある。機差とは1台1台の装置の性能の差のことである。ASMLの露光装置は機差が極めて小さい。一方、ニコンやキヤノンの露光装置には「顔がある」と言われる。半導体製造に携わっているリソグラフィ技術者によれば、1台ごとに個性があると言えるほど機差が大きいというのだ。

 機差が小さいか大きいか、これが半導体生産にどのように影響するのか? まず、機差が大きい装置の場合、工程ごとに専用装置化する。例えば、1号機は素子分離工程専用、2号機はゲート工程専用というように。装置が空いていると言っても、指定された工程以外のウエハを処理することはできない。ある工程専用に調整されているからだ。その結果、装置の稼働率は、せいぜい50%程度になってしまう(図2左)。

 一方、機差が小さい装置の場合は、工程ごとに専用機化する必要はない。どの工程のロットであっても、どの装置に処理させても構わない。その結果、稼働率は高くなる。こうしてTSMCやサムスン電子では、95%以上の稼働率を維持しているのである(図2右)。

図2 露光装置の稼働率の比較(左がある日本の量産工場での露光装置の稼働率、右があるアジアの量産工場で露光装置の稼働率)
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 結果的に言えば、機差の小さなASMLの露光機は、1台でニコンやキヤノンの2台分の処理能力を持つと言える。これが世界シェア80%を占める競争力の源泉となっている。

 ASMLは、機差の小さな露光機をつくるために、全体をステージ、レンズ系、光源、電装系などのモジュールに分割し、各モジュールを外部メーカーに製造させる方法を取っている。ASMLはこれらのモジュールをアッセンブルし調整する。

 機差の大小に最も影響するのはレンズ系であるが、調整の際、機差が許容範囲内に収まらない場合は、レンズ系を引き出しのように抜き出して丸ごと取り替えてしまう。このようにして、極めて小さな機差の露光装置を製造しているのである(詳細は「いつまでも『職人芸』では海外メーカーに勝てない、日本の半導体製造装置はなぜスループット、稼働率が劣るのか」、2010年9月24日)。